ボス!1



「白石、今度の西軍のボス二年らしいな」
「そうらしいなぁ。で、二番が一年やろ?」


ここは大阪四天宝寺中の三年二組。この学校には東軍、西軍と言われる二代勢力があり、日夜喧嘩をしていた。


つい一週間前のことだ。東軍のボス、忍足謙也が西軍のボス小石川を打ち破ったのは。

そして西軍は新たな改革として、ボスや二番手、三番手を全て変えて来たのだ。


「小春の奴、考えたわー。にしても二年なぁ…殴りにくいやん」
「ま、勝つんは俺たちや!」
「せやなぁ。あ、謙也。さっき小春が来たで」
「そうなん?ほな、ちょお行ってくるわ」


小春とは、西軍のアドバイザー的な立場の人間だ。東軍の三番手、一氏と危ない関係らしい。二番手の白石は毒手なる危ないものを使うため、周りが殴りかかれない。


「小春ー」
「謙也君!」
「浮気か!」
「黙れ一氏」


謙也が一氏、小春の教室に行くと、二人がいちゃこらしていた。とりあえず、二人は敵対する立場である。


「俺になんか用あったんとちゃうの?」
「そうなのよー。うちの新しいボスたち、紹介しようと思って!放課後暇かしら?」
「おん!空いてるで」
「やったら、蔵リンにも言うといてね!」


そして放課後、謙也と白石と一氏が三年二組の教室で待っていると教室のドアを叩く音がした。


「お邪魔するわね」


最初に小春が入り、その後ろから三人の男が入ってくる。


「っ…」


謙也はその中の一人に目を奪われた。ワックスで立たされた黒髪、色鮮やかなピアスのついた耳、気の強そうな瞳。


「…謙也君?」
「っおわぁ!!」
「話し聞いとった?この子、うちのボス。二年七組の財前光君」
「どもっすわ」


「お、おん!」


謙也の一目惚れだった。それと同時に、俺にこの子は殴れない、と思った。


「で、蔵リン。この子が遠山金太郎君。二番手よ」
「よろしゅう!」
「おん、よろしゅうな」


白石も心なしか顔が赤い。こちらも一目惚れのようだ。なおも遠山は白石に喧嘩強いん?などと話している。それにニコニコしながら答えている仲間を見て謙也は、とりあえずその子敵なんやけど、と思った。謙也も謙也で人のこと言えないが。


「で、ユウ君。こちら転校生で三番手の千歳千里君」
「おん!よろしゅうな!」
「一氏君、むぞらしかぁ!」


こちらでは九州男児が早くも一氏をロックオンしたらしく、口説き出している。


「で、対戦いつっすか?」


謙也の前に立っていた財前が謙也にそう声をかけた。


「えっ?!や、やっぱ戦うん、かな」


謙也としては財前を殴ることはしたくないし、傷も付けたくない。しかし謙也のそんな考えなんか知るよしもない財前は、当たり前やないですか、と言葉を返した。


「あー…、ちょお、白石に相談する!」
「分かりました。ほな、俺はこれで帰りますんで」
「あ、財前帰ってまうん?ほなワイも帰るわ!千歳ー!小春ー!」
「はいはい」


そう言って、財前達は教室から出て行った。残された三人は互いに顔を見合わせ、深くため息をつく。


「…謙也、」
「…どうした」
「俺にあの子は殴れへん」
「…俺もや」
「なぁ、俺千歳に口説かれたんやけど…」
「…そうやな」
「どないしたらええんかな…」
「…さぁな」




10/05/19

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