電話恋人2




「光はそのストラップ痛くないん?」
「はい?」
「やから、それ」


謙也さんが指さしたのは、俺のピアスだった。どうやら携帯の謙也さんにとって、このピアスはストラップらしい。


「痛くは無いで、もう慣れた」
「なぁなぁ光。光は、俺にストラップ付けたくないのん?」
「…謙也さん、痛いの嫌いやろ」


謙也さんは遠回しにストラップを付けたいと言って来た。しかし謙也さんは痛いのがまるっきりダメだ。前どうしても小さくならなくてはならない時があり、ポケットの中に入れていたら寝ぼけていたのか落っこちた。
それ以来謙也さんは痛いのが嫌いになり、小さくなるのも嫌いになった。


「俺は、謙也さんに傷なんかつけたないねん。大事にしたい…分かるやろ?」


俺が諭すようにそう言うと、謙也さんは少しうんうんと唸り、こう言った。


「やったら、千歳は白石様に大事にされてへんの?」
「………は?」
「やって、千歳はストラップ、つけとるで?」
「ちゃうよ、千歳さんは元々空いてたんや。部長はそんなことせぇへん」


千歳さんは所謂規格外商品だった。携帯の大きくなった時の平均身長は、150cmから180cmと決まっている。しかし千歳さんはそれを大幅にオーバーする194cm。買い手が付かないんじゃないか、と考えた会社側が強制的に穴を空けたのだ。穴を空ける金が減り、お洒落な携帯を持ちたがる人間は少なくない。
しかし、買ったのは人より大分イケメンな青年だった。


「じゃあ、千歳はちゃんと大事にされてんねんな?!」
「勿論や。部長の甘やかし方ったら無いで。千歳さん携帯のくせにすぐふらふらしよる」
「良かったぁ…」


同じ携帯友達として心配だったのだろう。確かに、持ち主に大事にされていない携帯はまずいない。しかし俺達みたいにずっと大きいままにしておくのは珍しい方だ。普通は持ち運びしやすいように小さくしている。
携帯としては大事にして貰えるが、古くなったら捨てる。飽きたら他の携帯に変える。新しい機能の携帯が出たら今の携帯に用はない。そういう持ち主がほとんどだ。


「…光、は、俺のこと、いらなくなったりする…?」
「するわけないやろ。どんな高性能な携帯が出たってずっと謙也さんだけや。…ただ、もうちょっとお勉強しような?」
「うっ…」


やっぱり、俺の携帯は謙也さん以外有り得ないんだ



10/06/18

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