こぼれる前に抱きしめて




どんなに遠山が側にいても、財前には拭い去れない苦しみがあった。それは不安や期待、諸々が混ざり合い財前を押し潰していた。


「ひかる、ひかるー?」
「ん…?」
「なんや光、おかしいで?どないしたん?」


今日、財前は遠山の家に泊まりに来ていた。昨日の晩、ご飯をご馳走になりそのまま流れで泊まることになったのだ。


「おかしくなんかないで」
「絶対おかしい!なぁ、なんかあったんやろ?」
「なんでそんなこと言えんねん…」
「やって、今ワイが一番光の近くにおるんやで?見ればわかるんや!」


遠山の今何気なく言った一言は、財前の心を掻き回すのには充分だった。

今は一番近くにいる。
じゃあ未来は?未来はどうなんだ?これから先は側にいなくなるのか。
そうしたら俺はどうすれば良い。今の状況に慣れ、金ちゃんの隣が心地好いと感じてしまっている俺は、一体どうすれば、


「っ…」
「…ひかる?」
「…な、んや」
「…泣いとんの?」
「泣いてなん、か、ないっ」


あぁ、いつの間にこんなに好きになったんだ。全部金ちゃんが悪い。全部全部金ちゃんのせいだ。前はここまで酷くなかった。全部金ちゃんが悪い。俺は悪くない。


「…ひかる!」
「っ…!」


遠山から顔を背け財前が涙を拭っていると、後ろから遠山が財前に抱き着いた。


「なぁ、どっか痛いん?ワイ、どないしたらえぇ?」


遠山は至極心配そうに財前にそう尋ねた。
財前はしゃくりあげながら、向き直り遠山の肩に頭を乗せた。


「い、たい、から、抱きしめてて」
「こ、こう?これでええの?」
「う、ん」


痛い、痛い、心が痛い
お前を想うと心臓が張り裂けそうなんや。

「(今日で、五日目…)」


こぼれる前に抱きしめて


タイムリミットは目前だった。




10/07/26

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