その笑顔は反則だから


―――時は4月某日

俺は中学二年生に無事進級

……当たり前やけどな


「ざいずぇ〜ん!」


この呼びかたは…………


「おはよ〜ん
今日もいつになくツンツンねっ
クールで、す・て・き」


ハートマークをつけるような言い方をする小春先輩

後ろで一氏先輩が浮気か言うてはりますで、小春先輩


「それに今日は入学式
どんなかっこええ子が入学式してくるんやろうか」


ウフッと笑ってランラランとノリノリで体育館に向かう小春先輩

待ってぇ、小春ぅ〜と小春先輩の後を追う一氏先輩


「相変わらずキモいっすわ」


そう呟いて面倒だが体育館に向かう

入学式って正直どうでもいい

館内でやることがなく席に着いて善哉のことを考えていればいつのまにか式が始まり、生徒が次々に点呼される

時折小学校時代に聞いた名前も聞こえたが特に興味はなかった

………アイツの名前を除いては


「……遠山金太郎」

「は〜い!」


担任に名前を呼ばれて元気良く返事する遠山金太郎


「…金ちゃん……」


思わずそう呟いた


金ちゃんこと遠山金太郎は俺の幼なじみで小学校に通ってたときは時々一緒に帰ったり遊んだり、親同士が仲良かったため誕生日に一緒にケーキを食べたりした

そして俺が小学校を卒業するときにとある約束をした

俺達はそんな感じで仲が良かったんやけど俺が中学に入学すれば当然のことながら遊んだり一緒に帰ったりすることがはたりと止んだ

誕生日のケーキは一緒に食べれたけど、祝ってくれなくなるのは時間の問題やと思う

………正直言って金ちゃんが俺を見抜けるかだって疑問やし
今の俺は小学校の頃より身長がぐんと伸びたし、ピアスしとるしな

そう思うと何故がちょっとだけ泣けてきた

金ちゃんが俺を忘れてしもうたんじゃないかっちゅー不安で心が押し潰されそうやった


普段ならべつに忘れらてもかまへんやんと思うのに今回はそうはいかんかった

無事に式が終わり、俺らも今日は終わり

…って言うても部活はあるんやけど


部室で着替えてテニスコートに足を踏み入れる

先輩達は既にラリーをしていた


「財前遅いでー」

「しゃーないっスわ、二年は式の片付けやらされてたんで」


謙也さんは待ちくたびれたとかなんとかブーブー文句を言いだすも軽く受け流す


「はいはい、すみませんでし「おったー!!!!」!?」


大声に思わずそちらの方を見る


「ひかるー!!」

「金ちゃん………!?」


小さな体に背負っているラケットが入ったバックを揺らしながらテニスコートに駆け寄る金ちゃん

えっ、え?と俺と金ちゃんを交互に見る謙也さんをよそに金ちゃんがくる方へゆっくり歩み寄る


「やっと、会えた!」


全力疾走してきたと言うのに息一つ乱さずにニカッと笑う金ちゃん


「どないして、ここに………」


俺はフェンスにしがみつくようにしながら金ちゃんに問い掛ける


「卒業式の、約束!
ワイ、一年間我慢したで!!」


…忘れとらんかった
金ちゃんはちゃんと覚えてとった

一年前の俺の卒業式でした約束を


(光!!
卒業してまうんか!?)

(おん、ちょっとの間会えへんようになるな……)

(ちょっとって?)

(一年くらいやな)

(ワイ、嫌や!!
ずっと光とおる!)

(金ちゃん…
泣かんといて…)

(泣い、とらん……!
ワイ、光のこと大好きやもん!
卒業っておめでたいことやからワイは泣かずに送り出)

(え……、金ちゃん
今の、は…)

(へ……?
告白やけど…
ワイ、光のことめっちゃ好きや
…でも、今の告白は無しや)

(………は?)

(ワイが中学に入学したらもう一度告白する!
遠距離恋愛は嫌やから…)

(つか金ちゃん遠距離恋愛知っとるんか!?)

(漫画で読んだんや
せやから、今のは無し!
中学生になったら光に告白するから待っててな?)

(おん…!
待っとる)



「光!」


金ちゃんに名前を呼ばれてハッとする

目の前に金ちゃんの姿はなく、フェンスを上りきった金ちゃんが得意げに笑っている

とうっ、とテニスコート内に着地する金ちゃん


「光、好きや!
一年離れとったけど、やっぱり光がいっちゃん好きや」


ぎゅっと俺に抱き着きながら言う金ちゃん


「一年間ずっと我慢しとった
この日が待ち遠しくて、光に会いたくて………!
光に会えなくて、淋しかった」


俺の胸に顔を沈めたままそう言う金ちゃん

小刻みに震える肩と声

金ちゃん………


「俺も、会いたかった
金ちゃんが約束も、俺のことも、全部、全部忘れてしもうたんやないかって不安やった」


俺はそう言いながらその小さな体を包み込む

ワイが光のこと忘れるわけあらへんやろ、と顔を上げて頬に涙のあとつけながら笑う金ちゃん


「金ちゃん、俺も、好き…
めっちゃ好き」

「光……」


今度は逆に俺が金ちゃんの首に顔を埋めながら言えば、くすぐったいと笑って言いながらも俺のことをぎゅっとしてくれた


「財前部活中やで?」


俺と金ちゃんが再会を分かち合っとるところで白石部長と謙也さんが話しかけてきた

この人達、誰なん光?と金ちゃんは俺から離れると俺にそう尋ねてきた


「白石部長と謙也さん
テニス部の三年生や」

「えぇっ!?
今日先生が言っとったけど部長ってめっちゃ偉くて凄い人なんやろ!?」

目をキラキラ……
いや、ギラギラの方が正しいかもしれへん

とにかく目を輝かせながら部長を見る金ちゃん


「せやで、偉いかどうかはわからへんけどな
何しにテニスコートに入って来てるん」


「何って、光に会いに!
そんなことより白石!
ワイと試合してや!!」


あぁ、ダメや
金ちゃん完璧スイッチ入ってもうた


「まぁ、ええけど…
…それより、自分は誰なん?
新入生?」

「あぁ、自己紹介まだやったな
光の恋人の遠山金太郎言います!
よろしゅう!!」


そう言ってニカッと笑顔を部長に向ける金ちゃん


俺は恥ずかしくなりそっぽ向く

……でも、一瞬見えたこの上ないくらい眩しい笑顔

俺はもう一度金ちゃんに惚れそうになった

その笑顔は反則だから


後日、俺らがテニス部公認カップルになったことは言うまでもない





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