恋をするということ


いわゆる、一目惚れというやつだった。
マフィアに連なる家系に産まれた私の周りに、それまで、彼のようなタイプの男は居なかった。だから、初対面の時の衝撃はそれはもう、まさに電流が流れたかのようだったのだ。
私より遥かに高い背、一見華奢にも見える引き締まった細い身体、眠たそうな三白眼にくるりと巻いた金の髪。そのパーツのひとつひとつに、ときめいた。しかも、そんななりでモスカを乗り回すのだから、完璧としか言いようがない。
思わず、きゅんとした。


「…なまえ、また来たの」


部屋に足を踏み入れた途端、飛んでくる単調な声。全く歓迎されている様子の無いそれに、けれども私の心はほんわかと温かくなる。声が聞けるだけで嬉しい。好かれていなくたって、側に寄れるだけで幸せだなんてベタな話だけれど。つまりは、完全に私の片思いである。
そんな私をよそに、スパナはちらりとこちらへ視線を向ける。それから、すぐに手元の器具へと注意を戻した。


「あからさまに嫌そうな顔しないで下さいよ」

「してないよ」

「してます。スパナの表情、私が読み違えるとでも?」


恋というものは、スゴイ。これはスパナに出会って実感したこと。今までは特定の誰かを、これほど理解しようと努力したことはなかった。なんとなく生きていれば、それなりの関係は築ける。でもスパナとは"それなりの関係"で居たくはなかった。
だから暇を見つけては、私はスパナのもとへ足を運んだ。そうしてスパナを理解しようとした。それでも彼の心の内を解りきれる訳はない。


「あきれてるんだ。毎日毎日、よく飽きないよね」

「飽きるなんて、まさか。私はスパナのこと大好きですから」

「ウチ、よく変わってるって言われるし。なまえみたいな女の子に好かれるとは思えないよ」


振り向かないままに、彼は溜め息を吐いた。私はじっと彼の背を見つめ、膝を抱えてぼんやりと呟く。


「私にとっては、理想そのものなんだけどな」

「…理解できそうにないな」

「仕方ないですよ、好きなんだもん」


恋に理由は要らない。するものではなく、落ちるものだから。一目で惹かれた。ただそれだけだ。


「…ウチは恋よりモスカの整備を優先する」

「そんなスパナが好き」

「物好き」

「上等です」


このような押し問答は、初めてではない。そして大抵後半で、スパナが呆れたように会話を切ってしまう。
けれども、今日は違った。スパナは不意に私を振り返り、片手でゴーグルを額にずらした。私が呆気に取られている間に、スパナとの距離はみるみる縮まる。そして遂に目の前までやってきた彼は、片膝をついて私の顔を覗き込む。


「ウチを本気にさせた責任、取ってよね」

色素の薄い瞳に見つめられ、体温の高い手が頬に触れた。私は急展開について行けず唖然としていたけれど、身近に彼の吐息を感じ、すぐに身体中が熱を持った。そして、真っ赤になって身動きできない私に、スパナは意地悪な笑みを浮かべる。


「ス、スパナこそ後悔しないでね…!」

「しないよ。ウチはなまえだから、本気なんだ」


会う度話す度、どんどん好きになっていく。それに終わりなんてない。彼の側にいられる限り、ずっと続くこと。
でも、恋はここでおしまい。ここから先は、彼に恋するのではない。彼を愛するのだ。





恋をするということ





***

相互記念に、「お茶会。」の紅。さんに捧げさせていただきます。

素敵な雰囲気の復活夢サイトさんで、数少ないスパナ好きとしてお声をかけていただきました(^^)

そしてなんと、紅さんからは素敵なスパナ絵をいただいてしまい…!代わりにというほどではない、つまらないものですが、どうぞ宜しければお納めくださいませ!
そして今後も、サイト、管理人共に仲良くしていただけると嬉しいです(^^)

相互ありがとうございました!


110514/禁色娘 ルナ



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