ロマンチストなのは


彼はとてもロマンチストだ。

最初に知り合った頃はただただ紳士で、素敵な大人の男性だなという印象が強かった。けれども深く付き合ううちに、それはあくまで彼の外見上、表面上の振る舞いにおける印象であり、内面や性格はその限りではないことに気づき始めていた。

冷静に見えて、情熱的。
余裕にみえて、不安定。
ダリウスは、とても感受性の豊かなひとである。けれどもポーカーフェイスや、元々あまりお喋りではない部分がそれを他人に悟らせず、彼をミステリアスな人物に仕立て上げているのである。

それが分かるようになると、一番最初に彼に抱いていた印象とのずれを感じる。

”素敵な大人の男性”?

確かに素敵で、私よりは大人なことは認めるけれども。でも少し見栄っ張りなところとか、意外に新しいもの好きなところとか、あと野心家なところだとか。

――そういうところが、かわいいなあ、なんて思う。
きっと彼は、かわいい、なんて言われるのは喜ばないだろうけど。でも男性の、意外に大人になりきれていない少年心を感じるような言動を愛らしく感じ、好感を持ってしまうのは女性ならば誰しもあることだと思うので、赦してもらいたい。


「ねえ、君は何を考えているの? 俺といるのは、退屈だったかな」

「ううん、ごめんね。ダリウスのこと、考えていたの」


咎めるような言葉にはっと顔を上げる。横に座るダリウスと目があった。覗き込むようにしてじっと私を見つめる彼の瞳は不安定に揺れている。いけない、静かな空間が心地よくて、ついぼんやりとしてしまっていた。ダリウスは忙しい。この頃は特に、あんまり一緒に居られる時間は取れないのだ。そんな中で取ってもらった二人きりの時間に上の空というのは良くないことだろう。
けれども、ダリウスは私の返事に気を良くしたらしい。目元を和らげて問う。


「俺の、どんなことを?」

「貴方はとっても素敵で、私には勿体ないくらいの恋人だなあって。なんで私と一緒に居てくれるのか、わからない」

「”なんで?”か。君のことを好きだから、では駄目なのかな」

「だ……駄目なんじゃなくて、どうして私なのかという意味です。ダリウスは、全部完璧なのに。たぶん、女運と趣味だけは悪いと思うのよ」

「……」


私の返答に、ダリウスは口を閉ざして黙り込んだ。
余計なことを言ったなって思った。女運と趣味が悪いだなんて、彼にとても失礼である。でもつい、彼に対してケチをつけたくなってしまう女心を許して欲しい。こんな素敵な男性と知り合いなだけでも恐れ多いことなのに、ましてや恋人同士だなんて、贅沢すぎて戸惑ってしまうのだから。

少しでも、どこか彼にも欠点があるのではないか。そんな風に期待して、探してしまう。
――そうじゃないと、釣り合わない。なんて思っている私の方が心が浅ましくて心苦しい。尚のこと、このまま隣にいて良いのか悩む。

ずっと私は、思っている。何故彼は私を選んだのかと。彼の運命は、神子として共に戦った梓だった筈。
嬉しくとも、複雑なのだ。彼が選んでくれた私は、私が彼からもらっているものと同等のものを、彼にあげられているのだろうかと。


「困ったね。君がそんな風に不安がるなんて、俺の気持ちがまだ足りない?」


ダリウスは神妙な口調で、ささやいた。彼の手が、私の髪をゆっくりと撫でる。優しい手つきだけれどどこか剣呑な空気を感じて、私は慌てて声を上げる。


「そんなことない!ダリウスの気持ちは十分なほど伝わってるよ」

「それなら何故、そんなに悩んでいるの」

「だから……だって…私は貴方に釣り合うような素敵な女の子だとは思えないから」

「そうやって、自分のことを悪く思っている時の君は、好きじゃないな。君は素敵な女の子だよ。梓よりも、千代よりも――俺にとっては」


言いながら、ダリウスはテーブルの上の箱を開け、中の物を手に取る。
私に似合うと言って買ってくれた髪留めだった。値段は聞いていないけれども、きらきらとしたきれいな宝石がはめ込まれている。高価なものなのだろう。
そのまま、その髪留めを私に飾り付ける。


「似合うよ、俺が思った通りだ」


飾り付け、髪を撫でた指はそのまま私の頬を滑る。慈しむように触れられ、自然に鼓動が早くなる。彼はどこか満足そうに、私を見つめる。


「でも、嬉しい。君が気に病むほど俺のことを気にしてくれている」

「え……」

「ごめん。俺のために、心を痛めて――想ってくれる君がいとおしくてたまらない。俺は本当に、駄目な男だな」


にこにこと、心底嬉しそうに笑う彼と目が合わせられない。
せっかくの二人きりの時間だというのに、私は可愛らしいこと一ついえないというのに。ダリウスは、いつも欲しい言葉をくれる。いつもいつも、私が欲しいものを全部くれるのだ。


「……本当に、私に似合っている?」

「君は、古美術商としての俺の目を疑うのかい?」

「う……」


私はうなだれて、されるがままに彼に寄りかかる。ダリウスは私を抱き寄せて、それから秘密を打ち明けるように、小さく呟いた。


「君は、ロマンチストだから。どうやったら俺に飽きないでずっと側に居てくれるか、そんな計算をしてしまうんだよ」

「えっ」

「どんなに高価な宝石を贈っても、どんなに甘く愛を囁いても君は喜んでくれない。それよりも、ただ俺と一緒に居られればいいという。愛があればそれで良いと。とてもロマンチックで…だからこそ、繋ぎ止めるのは難しいと感じる」


驚いた。そんな風に、彼が思っていただなんて。私には、彼の方こそロマンチストだと思っていたのに。

それに……紳士で優しくて、大人で――それなのに、可愛らしくて。そんなダリウスに、飽きることなんて考えられない。


「君の目には、いつまでも魅力的な男として映してほしいんだ」


至近距離で見つめられて、呼吸すらままならないと思った。
私はとっくの昔に、そしてずっと先まで、この美しい鬼の虜だ。



160613
桜華さんへ!



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