言葉、通じてますか? 普通に、とはいかないものの、私の感覚としては他の友達にするのと大差ない気軽さで、連絡を取ったのだった。 ククルーマウンテンのゾルディック家といえば、地元では有名な観光スポット(かつ危険ゾーン)らしいけれど、暗殺方面とはいえ名家には違いない。 きっと作法にも厳しいのでしょう。キルアくんもああ見えて、お坊ちゃまらしいらしいところがある。だから、ちゃんとまず電話でアポイントメントを取り付けてから訪ねたのだ。とても常識的である。目立った特徴のない私の、少ない長所と言っていい。 それなのに。 「君、素質あると思うんだよね。どう?俺の指導受けてみなよ」 ・・・・・・なぜこうなった。 頭を抱えたい思いでいっぱいだ。でも、超絶美人のお兄さんに至近距離で覗き込まれたこの状況、それもままならない。 「キルアくんのお兄さん・・・ですよね・・・?」 見事にパッチリとした双眸に、吸い込まれそうだ。怖い。底なしの闇を見つめている気分になって、無理やり視線を逸らそうと頑張る。 「うん、そう。イルミって呼んでよ」 「は、はじめまして、私キルアくんのお友達で・・・先日お電話でお約束したんですけど、あの」 「なまえだろ。もちろん知ってる、試験残念だったね」 ずい、と更に一歩詰め寄られる。困る。怖い。そして彼が私を知っていることに動揺した。 確かに私は、彼と同じハンター試験を受けていた。最終試験直前でリタイアしたのだけれど、後悔はしていない。元々、十代最後の腕試しと思っていたし、人より少し頑丈なのが唯一の取り柄。それで、よくもまぁ、あそこまで頑張れたものだ。 (キルアくんと親しくしてたから、かなぁ・・・) イルミさんは、他人に興味がなさそうだ。それにこっちも、危ない人に目をつけられないよう、ひっそりしていた。 それなのに、名前まで覚えられているだなんて。やっぱり私も、キルアくんには害だと排除されてしまうのかしら。 「なまえだったらひと月で試しの門は開けられると思う。念も一年で、いいとこまでいくんじゃないかな」 「タメシノモン?ネン?」 「あとは毒物だけど、五年もあれば耐性つくよ。大丈夫、君は我慢強いみたいだからね。いい体質だ」 「ありがとうございます・・・?」 ゴンくんたちに数ヶ月ばかり遅れて、ここへやってきた私。そして呆気なく、約束を取り付けてもらえたとおもったら、これだ。キルアくんじゃなくてお兄さんが待ち構えていたのだ。 いつまで私は、この美人さんと話していればいいのだろう。 「ハンター試験はまだ受けるの?」 「いえ、もう国に帰ろうと思ってご挨拶に」 「都合がいい。こうも調子良く君の方から来てくれるなんて」 イルミさんは、僅かに目を細めた。変化に乏しい表情だけど、わ・・・笑ってるのかな・・・? そしてさっきから、まるで会話は噛み合わない。状況がさっぱりだ。 「じゃあ、そういうことでいいよね。なまえはこれから、俺が付きっきりで鍛えてあげるから」 「えっ何が?!全然話読めないんですけど!??」 「聞いてなかったの?駄目じゃない。めっ」 人差し指を突き立てたような仕草で付きで叱られた。そんな可愛らしいことをされても反応に困るし・・・いやいや、私は悪くない。順序を踏まないで話し出す彼が問題なのだ。 「キルはまた家を飛び出しちゃうし、手が空いちゃって困ったところに君が来た。君はなかなか面白い素質を持ってて、その図太さならうちに馴染めそうだし、俺がそのために鍛えてあげるって言ってるじゃない」 間違いなく、初耳の情報。聞き捨てならない事実も、チラホラ聞こえた気がする。 「キルアくんいないんですか?!」 「そうだよ。友達とかいう輩に連れ出されたみたいだね。全く、父さんにも困ったよ・・・あれ、そうか、なまえもキルの友達だね。友達は、辞めてもらわなきゃな」 まるで、今気づいたとでもいうように、イルミさんは手を打ち鳴らした。 (友達を・・・辞めてもらう・・・?) 不穏な台詞に血の気が引いた。命の危険だろうか。でも彼は私を眺めて、態度を変えないままに続けた。 「キルに友達はいらないけどさ、君は別の形でキルの近くにいられるから、怯ないでよ」 「・・・はい?」 「俺と結婚しよう。気に入っちゃった」 ぎゅ、と手を握られて頭が真っ白になった。確かに美形だけど、将来安泰だけど、玉の輿で、キルアくんのお家で、でも暗殺一家の長男で・・・・・・それよりも、それよりも。 話が通じないので、通訳ください。 ------------------- 七軒さんのお誕生日に捧げます。 なんだかごちゃごちゃした文ですが、楽しく書かせていただきました!アダルトリオいいよね!そして、七軒さん家のイルミ兄ちゃんはものっそいかっこいいので、これからも更新凄く楽しみにしています(真顔)。 おめでとうございました! 120619 / 禁色娘 ルナ |