硝子細工の瞳 金髪、そして、硝子のような、瞳。 「…何」 私の視線に気づいたのか、彼は振り返った。揺れる髪が、見つめる瞳が、ひとつひとつのパーツが私とは…日本人とは異なる。 外国人に見慣れていないのだ。だから、見るからに欧人である彼につい、目を持っていかれる。 「………」 気にしないことにしたのか、彼は直ぐに手元の顕微鏡に視線を戻した。彼は、スパナは黙々と仕事を続ける。それは義務ではなく、多分趣味。私にとっては、機械に埋もれるこの仕事も新鮮である。 「スパナ」 呼んでみた。意味もなく。ほんの数週間前だ。彼に出会い、マフィアの道に引きずり込まれたのは。 上司であるスパナは、私に名前で呼ぶように言った。でも呼び捨てってどうなんだろう。ちなみにスパナは未だに、「あんた」とか「ねぇ、ちょっと」とかの指示語で私を呼ぶ。なんだか他人行儀で寂しいが、助手なんて所詮そんなものだろうか。 「…暇なら、お茶でも淹れて」 「日本茶?」 「うん」 漸くひと段落ついたのか、スパナは私に仕事を与えた。それから、硝子のような瞳で私を捉える。 「な、何?」 「そっちこそ、さっきからウチのこと見てた」 「(ば、ばれてた!)」 じいっと、私を見る瞳は眠たげだけれど、いつも不思議と惹きつけられる。 見つめ返す形でスパナの瞳を見ていると、沸騰したやかんが音をたてた。 「どうぞ」 スパナのお気に入りのマグカップにお茶を注ぐ。スパナは私からそれへと視線をずらして、ちょっとだけ笑った。 「助手子の淹れるお茶は、凄く好きだ」 どうしてこの人は、すんなり恥ずかしいことを言えるのだろう。 そういえば、まともに名前を呼ばれたのははじめてだ。誉められたのも。 それはとても嬉しいことで、私は無意識に頬をゆるめる。 しかし、その嬉しい感情とは別に、ぎゅう、と締め付けるような感情が私を支配した。無意識に頬が火照るのを感る。無性にどきどきするのである。 その感情が何なのかはわからないけれど、私は胸の痛みを抑えながら、また、こっそり硝子細工の瞳にみとれるのであった。 硝子細工の瞳 (その瞳に私を映して欲しい) ある日の技術者と助手。 081201 |