似たり寄ったり


「助手子殿…もしや、助手子殿ではござらぬか?」


街中で私を呼び止めたのは、透けるような色の髪を斜め分けにした背の高い男性。黒い細身のジーンズを見事に着こなしている。


「え…もしかして、バジルさん?」


久々に会ったから、すぐにはわからなかった。けれどその独特な話し方と優しい眼差しは、確かに知り合いのものである。


「わ、また随分と身長伸びたんですね!」

「助手子殿もまた美しくなられた。一瞬、どこかの令嬢かと声を掛けるのをためらったでござるよ」

「もう、お世辞は止してくださいっ」


久々の再会に、思わず声が高くなる。すると後ろから、スパナが腕を伸ばして私を引き寄せた。
今日はちょっとした買い出しついでに、二人で商店街の方まで足をのばしていたのである。


「助手子、誰?」

「ええと、バジルさんって言ってうちの弟がお世話になっている方なの。色々私もよくしてもらってるんだ」


バジルさんは私とスパナを見比べて、人好きのする笑顔を浮かべながら聞いた。


「助手子殿、その御仁は?」

「スパナは私の上司なんです」


バジルさんに最後に会ったのは、ちょうどスパナと出会う少し前だ。だから私が転職したことも知らないだろう。スパナは見るからに日本人ではないし、意外に思って当然である。


「へぇ、助手子殿の…」

「助手子の、ね…」


お互いに視線を送って、つぶやいた。私は、なんだか妙な空気になってしまった場をどうにかしようと言葉を続けた。


「そ、そういえば二人ともイタリア育ちなんだよね。日本好きだし、気が合うかもって、前に弟と話してたん…だけど…」


日本好き、と言葉にした途端、二人は弾けるように顔を上げた。


「日本好き…」


前から思っていたがこの二人、日本人より日本通らしいところが似ている。にも関わらず、妙なところでズレているのも。


「そうなんでござるか。スパナ殿は、日本に詳しくていらっしゃるんだな」

「…まぁね。俄かファンに負ける気はしないかな」

「なら拙者とは対等。こう見えて、日本好き歴は10年程でござる」


バジルさんは微笑みを湛えて切り出す。
「朝食は、和食派でござるか?」

「もちろん。ご飯と味噌汁、漬け物は外せないよ」


スパナも、得意気に返す。

妙なことになった。
間に挟まれる形ね私は、二人を見上げて押し黙る。


かくして、第一次並盛日本通選手権が始まったのである――。




似たり寄ったり




「流石スパナ殿は話がわかる。今の日本経済は…」
「バジルのいう通りだ。政治的観念からいくとあと数年は…」
「(あれ、いつの間にか日本の将来性の話になってる!?)」


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