日本食についての考察


ミルフィオーレは住み込み制の職場で、私もここに住み始めて一週間がたった。ようやくここでの生活に慣れてきたところだ。

――ただひとつ。

最近、上司の視線が痛いです。




日本食についての考察




「私の顔になんかついてる?」


私がそう指摘しても尚、スパナは私を凝視していた。それは、食堂でパンを頬張ってるとき。


「…落ち着かないんだけどな」

「…助手子はジャッポネーゼなのに、」

「え?」

「朝食はパンなのか?」


何を言い出したかと思えば、朝食のメニューの内容だった。スパナは不思議…いや、若干不満そうに私を見る。


「駄目なの?」

「ジャッポネーゼのくせに、」

「日本人のくせに?」

「味噌汁と納豆が恋しくないのか」


味噌汁ですか、納豆ですか。
まぁ最近、ミルフィオーレに入ってからは食堂で適当に食べてるから、三食ほとんどパスタ、みたいな食事をしていた。確かに、味噌汁と納豆はご無沙汰である。


「いや…まぁ少し恋しいかな」

「やっぱり!」

「や、やっぱり?」

「一週間もしたら恋しいかと思って、用意しといた」


ちょっと待ってて、と言い残してスパナはどこかへ消えた。
そして数分後、紙袋を持って現れる。


「スパナ、これは?」

「…プレゼント?」


中から出てきたのは、味噌と納豆。市販のやつ。わざわざ日本から取り寄せたらしい。
未だ、スパナの意図が読めない私は、首を傾げながらもありがたく頂くことにする。


「ありがとう、じゃあこれはまたの機会に食べるね」

「えっ…」

「え?」

「朝食に食べないの?」

「じゃあ明日の」

「今日は?」

「今日はパン食べたけど…」

「ウチは食べてない」


…そういうことか。
漸く見えてきたスパナの意図に、私は若干困惑しながらも問いかけた。


「食べてみたい?」


スパナが、ロボットのこと以外にこんな興味示すのを見るのは初めてではないか。
…目が、きらきらしています。


「でもウチは味噌汁作れない」

「はいはい、作ればいいんでしょ」

そんな訳で厨房を借りて数分後、スパナの前には味噌汁と納豆とご飯と漬け物が並べられた。日本人のスタンダードな朝食だ。
が、スパナはとても感動した様子でそれを見つめている。


「ジャッポーネの朝食だ…!」

「スパナは、なんでそんなに日本の朝食にこだわるの」


箸を、恐る恐る掴んだスパナは、尚感動したように漬け物を摘む。


「ジャッポーネは、好きだ。ロボット工学も進んでるし」

「そう」

「緑茶もヘルシーでミステリアス」

「そ、そう?」

「だからウチはジャッポーネが好きで、ジャッポーネのことをもっと知りたい」

「…へえ」

「助手子が助手で良かった」

「…!」

「ジャッポーネの助手が欲しかった」

「…。ねぇ私を選んだのってそんな理由?」

「半分ね」

「(味噌汁に負けた!)」


味噌汁も、納豆もご飯もしっかりスパナは完食。慣れてないくせして、箸使いが上手いのは器用だからだろうか。


「美味しかった?」

「毎日ウチに味噌汁作って」

「…そういうことは軽々しく口にしないでよね」

「?」


スパナは日本語が達者だし、知識も持っているようだけど…女の子にそう言うのは、プロポーズも同然だと、そこまでは知らなかったらしい。
無垢な笑顔で笑いかけるスパナに、先が思いやられた。


(上司が日本マニアだなんて、聞いてないよ!)



081108





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