俺と友達





「つか、なんだよミルフィーユって!ケーキ屋かよ?!」


ダン、とテーブルを勢いよく叩いたら相手は苦笑して「落ち着きなよ」と俺をたしなめた。


「ほら、目立ってるじゃないか」


気持ちが入り込みすぎて思わず立ち上がっていた俺は、赤面しながら椅子に座る。


「ちょっと過保護なんじゃないの?頼りなくてももう大人でしょ、大丈夫だよ」

「いやいやお前はあいつの馬鹿さを知らないからんなこと言えるんだ。あいつさ、普通に知らない奴に騙されてついて行くからな」

「でもそれで大事に至ったことはないんだろ?」

「……でも今回はやばいかもしんないし」


頑として自分の意見を変えようとしない俺に、幼なじみは溜め息をついた。彼の目に浮かんだ色は「じゃあ相談するなよ」と言っていたが、無視。俺だって行きたくもないケーキバイキングに付き合っているのだ、これは立派な交換条件である。


「そんなに言うなら、わざわざ僕に相談しなくても…」

「口に出して言うな。俺は今、全く同じ台詞を描写したばかりだ」

「はぁ?また意味わかんない事を」

「文句なら受け付けないぞ。俺だってこんなファンシーな店に野郎二人という地獄に耐えているところだ」


幼なじみは、不服そうな顔をした。ケーキバイキングに男も女も関係ないと言いたいのだ。しかしそんな事を言われても、俺は甘いものは好きではないのが事実。

そもそも何で俺たちがこうして可愛らしい外装のケーキ屋さんで、膝を交えて語らっているのか。それは二週間ほど前の話となる。二週間前、俺の姉貴が海外研修という名目で、イタリアへ旅立った。無理矢理聞き出した就職先はミルフィーユという技術系の会社。だがそれは明らかに、どう考えてもふざけた社名である。やはり何か姉貴は騙されているのではないか。それを確認するために、俺は母国から帰還したばかりの幼なじみを捕まえたのであった。


「結論から言うと、僕はそんな会社聞いたことないな」

「やっぱり…だよなァ」

「でも立ち上がったばかりの会社だったら、僕も把握しきれていない。となると、本当に小さな会社なのか嘘の社名を言っているか…だね」

「姉貴に嘘の社名を言う理由がねぇ以上、騙されてるとしか」

「やっぱり心配のしすぎだよ」


ケーキにフォークを刺しながら、幼なじみは呟いた。


「君、ちゃんと調べたんだろ?お姉さんの引き抜きについての資料」

「ぐ…」

「正式な引き抜きなら、何もそこまで心配することはないよ。いきなりイタリアっていうのが不安なのはわかるけど、逆にイタリアだったらもしもの時に対応しやすいじゃないか」


一理ある意見に黙るほかなかった。黙った俺をいいことに、彼は追い討ちをかけるように笑った。


「そんなに気になるなら、兄さんたちに聞きなよ。このシスコン」

「は…シ、シスコンじゃねえ!お前こそレッサーパンダみたいな名前しやがって、」

「すいませーん、あとケーキ10個追加で」

「10個!?」

「相談に乗るお礼、君の奢りだったよね」


テーブルに並ぶ大量のケーキの奥で、幼なじみは非常に爽やかな笑みを浮かべた。温厚な性格の彼も、こうなったらどうにもならないことはわかっていたが、それでも俺は、言わずにはいられなかったのだ。


「フゥ太、俺らって友達」

「ただの仕事仲間だよ」


ぴしゃりとはねのけたフゥ太は、笑顔でケーキにとりかかった。




MY FRIEND

(…そんなにケーキ食ったら太るぞ)



090123



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