マシュマロ事件




「なんでかわからないんだけど、今日白蘭さんからマシュマロ届いたんだよねぇ」


しかも、わざわざイタリアからの速達便で。綺麗にラッピングされた高級品だ。ミルフィオーレのボス、白蘭さんは大の甘党で、特にマシュマロが好物らしくよく口にしている。そう言えば最初に会ったときも食べていたな、と思い返した。
それでもそれを送ってくるということは中々ないから、不思議に思った。メッセージもなく、宛名だけなのだ。そんなことがあったので私が首を傾げて何気なく言うと、スパナは突然いじっていたモスカを物凄い音を立てて倒し、目を見開いて私を振り返った。


「…スパナ?凄い音がしたけど大丈夫?」


スパナがびっくりしたことに驚いた私は、倒れたモスカをそのままにして動きを止めた彼に、恐る恐る声をかける。しかしスパナはそれには答えずに、若干慌てたような声で呟いた。


「マシュマロが?今日?」


とっさに何を聞かれたのかわからなかかったが、それがさっきの私の言葉に対する質問なのだとわかり、小さく頷く。


「出せ」

「はい?」

「もらったマシュマロ!出して!」


何で、と思ったけれど妙な気迫のスパナに押され、素直に差し出す。スパナは綺麗に包まれたそれを一目見ると、直ぐに自分の後ろに隠してしまった。


「あーっ、ちょっと何するの!」

「ダメ。これは没収」

「何で!折角もらったのに!」

「…マシュマロならウチが買ってやる。でもこればダメ」


不機嫌そうな顔で、頑なにそういうスパナは「他にはなんかあるのか?」と私を見つめる。


「他…って、ボスにもらったもの?」


たまに、色々くれるけど。花束とか。そういうと、スパナは急に私の腕を引いた。


「もう白蘭と、連絡とるな」

「え?」

「ダメだからな」


余りに真剣な顔をするものだから、なんだかスパナが可愛いくて笑ってしまった。笑うな、と膨れるスパナに「わかったから」と頷くとやっと納得したように腕を放してくれた。

その後、スパナは白蘭さんのものに負けないくらい高そうなマシュマロをプレゼントしてくれた。そしてあのマシュマロがホワイトデーのプレゼントなのだと知ったのは、更に後のことだった。



三月、マシュマロ事件




「あのマシュマロさ、スパナくんに見つかって処分されちゃったらしいんだよね」


あの、というのはホワイトデーに助手子に送ったものだ。愉快そうに笑って言った白蘭に、画面の向こうで正一が呆れたように返した。


「マシュマロ…って本命の相手に渡すものじゃなかったですか」

「うん、まぁ僕が助手子チャンに対して本気ってわけじゃないけどね」


最近、白蘭がスパナの助手にご執心だという噂は有名だった。なんでも、自分に媚びないのがいいらしい。


「スパナくんがむきになって反抗してくるのが楽しくてさ」


ケラケラと笑う白蘭に、正一は二人に同情するように溜め息をついた。


100314
一年前に書いたものの、上げ損ねです。



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