迂回 1




「え、メカ?」


フゥ太はツナの言葉を予想していなかったのか、少しだけ驚いたように声を上げた。十年前より大人びたフゥ太は、しかし大きな瞳は十年前と同じように彼の感情を素直に映す。ツナはゆっくりと瞬きをしたフゥ太を前に、申し訳なさそうにした。


「ああ、そっか。ツナ兄はメカの事知らないんだ」


それは、ボンゴレアジトに来て数日。各々が戦いに備えて修行を続けるある日のことだった。修行が早めに終わったツナと獄寺は、兼ねてからの疑問を解消する為フゥ太を捕まえた。疑問、それはこの基地の整備等を担当しているという青年、メカと呼ばれる男についてだ。


「一回だけ、喋ったことはあるんだけど。ここの管理全般をしてくれてるって聞いたし、皆とも仲いいからどんな人なのかなって…」

「そういえばフゥ太、あいつと凄い仲良くしてたよな」


それぞれ首を傾げる二人に、フゥ太は微笑を浮かべる。確かにメカは、自分達に比べて仲間に入ってからの日が浅い。けれど、今では居なくてはならない重要な人材の一人だ。メカと出会う前の彼らが、不思議がるのは当然だろう。


「メカは僕の幼馴染だからね」

「フゥ太って幼馴染いたの!?」

「ってことは、イタリア人なのか?」


確かにフゥ太はイタリア生まれだ。幼馴染と言ったら祖国のことを連想するのは仕方ないかもしれない。だがその後の十年を勘定へ入れれば、フゥ太は日本で過ごした年数の方が多い。


「まさか。メカは純日本人だよ。実家、並盛だし」

「並盛!?」

「ちょうど、リング争奪戦が終わってからかな。ツナ兄の家にも何度か遊びに来たんだ」


自分がマフィアに属する人間だというのは、幼い頃から自覚していた。その為に並盛の子供達との接触は極力避けていた自分が、初めてメカを沢田家へと連れてきたときは、誰もが驚いていたと思い出す。


「僕に聞くより、本人に聞いた方がいいと思う。きっと、ツナ兄や隼人兄と話したがってるし」


タイミング良く現れた青年の襟首を捕まえて、フゥ太はツナたちへ振り返った。







「ええと…メカ、さん」

「さん、なんて要らないですよ!どうぞ呼び捨てて下さい、ボス!」


にこにこ、と。とても人懐っこい笑顔を浮かべた青年を前に、ツナは引きつった笑みを浮かべる。自分を躊躇いなくボスと呼ぶ彼は、余程十年後の自分を慕っているようだ。ただ、まだ自分がボスであると今一納得しきれていないツナには、十年後の自分と同じようにボスと(しかも親しげに)呼ばれると少し苦いものがある。
そんなツナの気苦労を気にする様子のないメカは、初めて会った時と違い、今日はTシャツにGパンというラフな格好だった。髪も跳ねてない。しかし、Tシャツは相変わらずごてごての髑髏のプリントである。


「――で、俺の話を聞きたいって?」

「ああ…うん、忙しくなければなんだけど」

「俺はいつでも空いてますよ。大体、ボスの頼みは断れないっつーか、」


そこで一度言葉を切り、メカは意味深に呟く。


「一度、ボスとはゆっくり話をしてみたいと思ってたんですよね。ボス、俺のこと全然知らないでしょ」


当たり前である。会ったばかりなのだから。
メカが腕を組んで改めてツナと獄寺を見遣ったところで、それまで黙っていた獄寺が一歩前へ出て青年へと詰め寄る。


「おいテメェ、前から気になってたんだ。なんでそんなに十代目に慣れなれしいんだ!つか、何者なんだ!!」

「ご、獄寺くん落ち着いて。今それ聞こうとしてるんだから!」


掴みかからんばかりの勢いの獄寺に、ツナは慌てた。が、怒りの矛先を向けられたメカは、何を思ったのか――笑みを深くしてしみじみと呟いたのだった。


「隼人先輩、ちっさくても相変わらずっスね」

「せ、先輩?!」


予想だにしていなかった言葉に獄寺は勿論、ツナも動揺を隠せない。当然十年後の彼らはメカよりも年上だ。しかし、彼が今まで誰かに「先輩」という呼称をつけていることはなかった。ツナには「ボス」だったし、山本も「山本さん」。ラルに至っては呼び捨てだったのだ。十年後の獄寺とメカとの関連性は全く想定外で、混乱した。しかし、よくよく考えればあの人懐っこさ――というか、ツナへの服従度は獄寺とそっくりではないか、とツナは鈍い頭で考える。


「何者だ、か・・・」


メカは相変わらずこちらの動揺を意に返すことなく、悩むように唸る。


「俺は、ボンゴレ10代目専属メカニック。それだけじゃ満足できないなら、今日は俺の部屋に案内しましょうか」


そして、二人に向かって手を差し出したのだった。








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