傍観




「この数日、予想できないことばかりが起こりやがる」


数日というのは、10代目暗殺からこの五日ばかりだ。その展開の速さに、目が回りそうだった。



ボス達とミルフィオーレの突然の交戦は、俺がラルと再会したその日のことだった。

雲雀恭弥捜査のために、山本さんと10年前のボス、隼人先輩が並盛へと出かけた直後。町で京子さん、ハルさんを迎えに行ったランボとイーピンがミルフィオーレと遭遇してしまったのだった。
戦闘中、山本さんが10年前と入れ替わり、合流していたランボ、イーピン、ハルさん、京子さんも入れ替わってしまったという。対する相手はミルフィオーレブラックスペル、恐らく第3アフェランドラ隊。決して楽に勝てる相手ではないが、隼人先輩、ボスが必死の対抗ののち、見事撃退。
無事、彼らは戻ってきた。しかし、無事とはいえ傷だらけだった。身体も、心も。


ボスと隼人先輩は兎も角、新しく入れ替わった5人は状況を把握できていない。特に、マフィア関係を伏せた状態であるハルさん京子さんは「何らかの理由で、10年後の世界へ来てしまった」とだけ知らされ、始めのうちはただただ愕然としていた。ランボ、イーピンも10年前はまだ五歳。重要な話ができる年齢ではなく、地上には依然としてミルフィオーレが溢れているためアジトで大人しくしていてもらうしかないのだ。

ボスは特に、彼女たち非戦闘員を気にしていた。それでも「元の時代へ帰る」ためにはミルフィオーレの、イリエショウイチなる人物を倒すことが唯一の手掛かりなのだ。戦闘は避けられない。まずは守護者の捜索、そして自身の戦闘力の強化をするべきだと各々が無理やり自身に言い聞かせた。


その後すぐに、ボス、隼人先輩、山本さんはラルに匣兵器の指導を受けることになった。京子さんハルさんは、アジトの家事を担当。とりあえず行動の方向性が決まり、上手くいくかのように思えた。しかし。



「京子さんが脱走…」

「ああ。やっぱり、キツかったようだな。突然10年後に連れてこられて、良平も行方不明、置き手紙には"一度家に行ってくる"とあったそうだ」


加えて雲雀恭弥と関連があると思われるヒバードの出現と消滅、そしてSOS信号。ボス、ラル、隼人先輩、山本さんがそれらに対処すべく地上へ向かっている。


「ジャンニーニ、今の状況は」

「山本さん、獄寺さんがヒバードの消えた並盛神社に、10代目とラルさんは京子さんの捜査へ向かった模様です」


聞きながら、地上を映すモニターを見る。明らかに異常だとわかるほど、黒スーツ姿の男が並盛のいたるところにいる。それだけではない。リング反応が凄まじい。
つまり、全てミルフィオーレ。敵だらけだ。


「ミルフィオーレが…並盛にこんなに」

「ええ。京子さんたちを探しているのでしょう。非常に危険です」


ジャンニーニも苦渋の表情で画面を見上げる。俺は、一際大きなリング反応に目を見開いた。


「…アフェランドラ隊隊長、電光のγ…!やばい、並盛神社だ!」


並盛神社は、山本さんと隼人先輩が向かった先だ。このままでは、両者が鉢合わせになる。いや、あるいはヒバード自体がγによる罠だったのかもしれない。
しかし、今の山本さんと隼人先輩は、この時代の戦闘においてはド素人だ。対する相手はあの六弔花。確実に、負ける。


「…俺も、俺も助っ人に行きます」


呟いて腰を上げると、リボーンさんが視線を寄越した。


「助っ人?」

「戦闘力はそんなに高くないですけど、俺だって囮くらいにはなれる」

「…お前、戦闘員じゃねーだろう」

「後方援護なら自信があります。こう見えて、ヴァリアー仕込みですから」


驚くリボーンさんに、苦笑。そりゃあそうだ。メカニックは普通、戦わない。普段は自分が戦闘員に加算されることを面倒に思うのだが、今回ばかりは良かったと思う。しかし俺の前に、ジャンニーニが立ちふさがとた。


「いけません!」

「ジャンニーニ、邪魔するな」

「メカ、あなたは戦場に出てはいけないと、あれほど言われてたでしょう!!」

「だ、けどっ…今は緊急事態だ!」

「行かせるわけにはいかない、10代目に申し訳が立ちません!10代目を裏切るつもりですか!?」


10代目を裏切る。そう言われてしまうと言い返せない。ジャンニーニの言葉は、正論だ。


「くそッ…!」


無理、だ。ボスを裏切ること、それは一番のタブーである。うなだれた俺に、リボーンさんが口を挟む。


「どういう事だ?」

「メカは、確かに戦えるんです。でも、止められてるんですよ。10代目に、戦場にはでるなと」


悔しい、悔しい、悔しい。
やっぱり自分には、直接みんなを救うことができないのだ。こうして、安全な所で、彼らを信じて祈ることしかできない。それは、歯痒くて苦しくて(でもボスたちの方が辛いのはわかっている。だからこそ、また苦しい)。


「もう、あの時の二の舞は嫌なんだ…ボス…」


俺は、親しいファミリーが死ぬのは、もう見たくなかった。それが子供の、我が儘であるとされても。




傍観




「怪我も見た目程、大したことはない。ここは医療施設も充実しているしな。成長期なんだ、すぐ回復するだろう」


全員、生きて帰ってきた。瀕死の隼人先輩と山本さんのもとに、雲雀恭弥が駆け付けたのだった。ボスもラルも、京子さんを無事見つけた。


「あーあ、結局俺は、画面見て指加えてるしかなかったんですよね」


溜め息と一緒に頬を膨らませたら、リボーンさんは意外そうに言う。


「思ったより、立ち直り早いな」

「そりゃあそうですよ。ボスに出会ってから、俺はこんな役割ばっかし。いつまでもガキ扱い」

「ツナらしいな」


ふっ、と笑ったリボーンさんに俺はまた溜め息を吐く。ボスが優しくて、俺のためにそうしてくれるのは俺にだってわかっている。


「そんな顔すんな。良かったじゃねーか、みんな無事で」

「そうですけど〜…うー」

「大丈夫だ。ピンチの次にはいいことがあるもんだからな」


何を根拠に、と思う。それでも説得力があるのだから堪らない。


「良い知らせですよ!」


その時、ジャンニーニがひょっこりと扉から顔を出した。満面の笑み。


「フゥ太さんとビアンキさんが戻ってきます!」


それは、吉報に違いなかった。

100212



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