認知




ボンゴレリング争奪戦が終わり、ほっとしたのも束の間。10年バズーカに当たったリボーンが行方不明になり、自分も10年バズーカに当たってしまった。
たどり着いた先は棺桶で、10年の世界はとてつもなく大変なことになっていて…ラル・ミルチという人と10年後の山本と、自分と同じように10年後に飛ばされた獄寺となんとかアジトに到着。

この時点で、若き沢田綱吉の頭は既にパンク状態である。


(とにかく、リボーンに再会できて良かった)


しかし、考えていたよりこの世界の危機的状況は深刻だった。10年後の自分は死んだと告げられ、ミルフィオーレというマフィアがボンゴレのみならず、ツナの知り合いにも危害を加えようとしている。守護者を集めることが必要だと、とりあえず話はまとまった。
不可解な未来。どうすればいいのか分からないし、不安に押しつぶされそうだ。


彼にに出会ったのは、そんな時である。



「…ん、やけに今日のアジト、騒がしくねェ?」


ぼそり、とつぶやかれた声にツナは目を瞬かせた。声がした方へ視線を向けると、前方三メートル程先に見知らぬ後ろ姿がある。初めは獄寺か山本か、知っている人物だろうと思った。しかし、よくよく見るとそのどちらでも無い。
10年後の山本よりは背が低く、細身だ。短めの髪はまるで寝起きかのように、あらぬ方向へと跳ねている。黒いTシャツ姿で、同じく黒いツナギの上半身部分を腰の所で結んで着こなしていた。そのTシャツ、ツナギどちらにも施された、獄寺の好きそうな髑髏なんかのゴテゴテしたプリントが印象的である。


「つか、どこいんのアイツ。ていうか俺のカップめんどこだよ」


がりがりと乱雑に髪を掻き乱しながら、青年は意味不明な言葉を呟いた。
彼は明らかに、ツナの知らない男だった。ツナは10年後の世界に飛ばされて、未だに混乱している。このアジトがどうなっているのか、誰が居るのかすら知らない。前方の彼は敵には見えないけれど、自分の知らない男がこのボンゴレのアジトにいることに、少し不安になった。

――と、青年が片方の腕に抱えていた書類のようなものが、ひらりと一枚落ちる。


「…あの、落ちましたけど」


足元のそれを拾い、ツナは思わず話しかける。すると彼はゆっくりと振り返り、照れたように笑った。


「お、悪ぃ。ちょっと寝ぼけてた。流石に二日間徹夜はまずかったかな」


彼の返答は、ツナがそこにいるのがさも当たり前のような態度である。仮にこのアジトの人間だったら、初対面であるツナを不審に思うのではないか。
どうしたらいいのか、そのまま青年をじっと見つめるツナに、青年はようやく首を傾げた。


「あれ、あんた誰だっけ」

「え…えっと…その、」

「誰かの弟――てわけでもねーよな。え、もしかして侵入者…?」

「(ていうか気づくの遅ーッ!)」


その台詞からすれば、やはり彼はアジトの人間のようだ。マイペースなのか、彼は本当に今ツナに気づいたらしい。とりあえずツナは心の中で盛大に突っ込んだが、それから互いに見つめ合ったまま硬直してしまった。
青年は眉間に皺を寄せ、ツナの方に手を伸ばそうとした。しかし彼の手がツナに届く前に、ぱこん、と良い音がして青年の頭が叩かれた。


「おいメカ。寝ぼけんな」

「げっ、や、山本さん…!」

「目ぇ覚めたか?」


青年の後ろから現れたのは、山本だった。山本に叩かれた後頭部を押さえた青年は顔を苦々し気に歪めたが、それは山本の顔を見た途端に引きつった笑いに変わった。


「あはは、や、山本さんおはようございます」

「この騒動で寝てられることに感心だな。お前が寝てる間に随分大変なことになった」

「…すんません…」

「まぁいいけどよ。チェデフからの使者を迎えに行ったら、懐かしい奴らも付いて来たんだ」


山本は言いながらツナをぐい、と青年の前に押し出す。青年は言われて、ツナを凝視した。


「わかんねーか」

「んー…?なんかどっかで見たような気もするんですけどね」


首を傾げた青年の視線がなんだかむずがゆく、ツナはあわあわしながらも口を開いた。


「あ、あの俺、10年バズーカに当たって…」


10年バズーカ、と彼はツナの言葉を繰り返す。そのまま考え込むように俯いた青年は、突然、勢いよく顔を上げた。


「ボス…!?」


肩を掴まれ、ツナはびくりとする。しかし青年は気にする事無く目を輝かせ、ツナをまじまじと見る。


「え、うそ、まじかよ…!」

「さ、沢田綱吉です」
「うああ、ボスだ!!えええちっさい!懐かしい!」

「あ、あの」

「大丈夫だツナ。こいつは、仲間だ」

山本ののんびりした言葉が聞こえる。しかし凄い速さで肩を揺すられるツナは、笑ってないで青年を止めて欲しいと切実に思う。


「あーっそっか!10年前のボスはまだ、俺のこと知らないですもんね!」


しばらくして落ち着いた青年は、ようやく気づいたように言う。そして、にっこり笑って手を差し出した。


「俺はメカ。ボンゴレ10代目ファミリー専属のメカニックですっ。どーぞお見知り置きを!」


満面の笑みの彼、メカに手を握られながらツナは複雑な心境だった。奇妙な青年と出会った、と。




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