迂回 2




結局、そのままの流れでツナと獄寺はメカの部屋へと案内されることとなった。途中偶然通りがかった山本も加わり、四人並んで廊下を行く。


「十代目、あいつやっぱり何考えてんのかわからないですよ。本当に、ついてって大丈夫っスか?」

「ま、まあ不思議な人だけど…悪い人には見えないし」


先を歩くメカの背中を眺めながら、獄寺はツナに囁く。獄寺は、彼を信用する気がないようだった。ツナを自分のボスとして大切に思う獄寺にとって、たとえ十年後の自分の知り合いとはいえ、見知らぬ青年がツナをボスと慕っていることが面白くないのだ。そして困ったことに、メカの得体の知れなさは否定できない。そこがまた、獄寺の防衛本能を刺激しているらしい。


「獄寺は慎重なのな」

「馬鹿、お前がノーテンキすぎんだよ!」


相変わらずマイペースな意見を述べた山本に突っかかる獄寺。既に日常化した風景を眺めながら、ツナは苦笑いを浮かべた。
このボンゴレ基地内において、確かにメカの存在は異色だった。自分達のような戦闘員ではなく、かといってジャンニー二と行動を共にすることは少ないらしい。ラルとは親しいなかで、しかもフゥ太の幼馴染だという。
普通に考えたら、違和感を感じるのは間違えないだろう。が、ツナにはなんとなく、この青年が自分達にとって悪くない存在だという気がしている。


「そんな警戒しなくてもって言いたいとこですけどね、ボスたちがそうやって慎重に事を進めてくれたお陰でこのアジトがあるわけだし文句は言えないな」


ツナたちの様子を察してか、メカは少しだけ振り向いて笑った。


「気分を害したならごめんなさい。俺たち、そういうつもりじゃ…」

「いやいやボスは何も謝らなくていいんですよ。ただ、俺への疑いを晴らしてくれたんなら嬉しいけど。これから暫く同じアジトにいるのに、山本さんは兎も角、隼人先輩に邪険にされると流石の俺も傷つくし」


本当に気にしてないようである。
ツナが胸をなでおろしたところで、山本は不思議そうに首を傾げる。


「なあ、獄寺とあんたって何か特別な関係なのか?」

「山本?!」

「ずっと気になってたんだ。俺やツナに対しては先輩って言わないもんな。それに、その服もどことなく獄寺っぽい」


山本の言葉に驚いて改めてツナはメカに視線を送る。言われてみれば、彼と獄寺はどことなく似ていた。服だけではない。雰囲気や仕草が、不意に獄寺を連想させる。それにツナへの従順さ、その態度はまさに獄寺そのものではないか。
当のメカは照れたように頭を掻いた。


「はは、さすが山本さんですね。正解。俺の服って高確率で隼人先輩の趣味なんです」

「俺…?!」

「なんで獄寺くん?!」


メカの言葉にツナと獄寺は同時に声を上げる。


「ボンゴレに入った数年前――まだガキだった俺の後見人を引き受けてくれたのが隼人先輩だったんです」


訝しげな表情の獄寺に、メカは曖昧に笑って話を続けた。


「あの時、今のボスたちと大差ない年齢でしたからね。ボスはなかなかイエスと言ってくれなくて、最終的に幹部から後見人を出すってことで話がついたんです」


確かに、彼はまだ若かった。フゥ太と同い年ならまだ成人もしていないだろう。未だにボスを継ぐことを躊躇しているツナは、十年後の自分の判断に異論はない。


「新人研修と称して世界を飛び回らせられたりしたけど、ボスの元へ戻ってから仕事や作法、生活習慣に至るまでほぼ全ての事を隼人先輩に教わりましたから。幹部の皆さんは尊敬してても、やっぱり隼人先輩は特別親しくしてくれてたんです」


親しみを込めた視線を送られた獄寺は、戸惑ったように頬を掻いた。


「俺は…十年後の俺は、その、上手く仕事出来てたのか」

「はい。立派なボスの右腕です!」

「そ…そうか」


そう言われて獄寺はまんざらではなさそうだった。ぶっきらぼうながらも、照れたように頬を緩める。


「と、ここです俺の部屋」


メカは、突然足を止めて振り返る。そこはツナたちの部屋からは離れていて、修行場にほど近い場所だった。


「ちょっと散らかってるけど、気にしないで下さい」


言いながら開かれた扉の中を見て、ツナと獄寺、山本はぽかんと口を開けた。


「ちょっとか…」

「うわ、汚ねぇ」

「し、仕方ないでしょ!俺、仕事中だったんだから!」


慌てるメカの後ろ、その部屋は寝室と思えないほど工具やら機械やらが散乱していた。否、寝室というよりも仕事場なのかもしれない。見たこともない武器、多くの電子機器。これを扱うのがメカニックである彼の仕事なのだろう。
と、ツナはさらに奥へ視線を滑らせてぎょっとした。


「モスカ?!!」


自分の身長を悠に超える巨体。装填された多くの武器、鉄のボディ。それはこの世界に来た時に見た、モスカそのものだった。まさか彼が敵と通じている?と一瞬混乱したツナに、メカはなんでも無さそうに答える。


「残念。それは残骸ですよ」

「――残骸…」

「そ。ミルフィオ―レの奴らが偵察用に寄越したやつ、戦闘で壊した時に一体だけ持ってきてもらったんです」

「何の為に?」

「勿論、研究に」


何故か得意げに、メカは言う。そして少しだけ表情を曇らせた。


「ボス、悔しいですがミルフィオ―レの技術はボンゴレよりも遥かに勝っています。いや、世界で一番進んでいるんじゃないかな」

「なんでそんな事わかんだよ」

「それを調べる事が俺の仕事だから」


メカは、静かに続ける。


「フゥ太は、きっと俺はアジトの管理やってるって言ったんでしょうけど。実は、それはほぼジャンニーニに任しっぱなしで」


メカニックとは聞いていた。が、彼の仕事内容を聞くのはこれが初めて。それを知りに、ここまできたのだ。


「俺の仕事は情報収集と戦闘管理。ボスたちの状態と相手の状態を見て、幹部の方たちと作戦を立てたりしてたんです。必要に応じて、俺も戦場で後方援護程度ならできますしね」


それから、少しだけ気まずそうに付け足す。


「…モスカは半分、趣味なんだけど」


呆気にとられた三人に、メカは首を傾げた。


「まだ信用できない?」


自分が思っていたよりもこの青年がボンゴレに深く関わっている――と、ツナは感じていた。そして、まだきっと自分も知らない顔が彼にはあるということを。信用できるのか、十年後の自分は彼とどのように接していたのか…それはわからないが、考えるよりも先に答えていた。


「いや、俺は君のこと信用できると思う」


ツナは、目の前の青年に手を差し伸べる。


「これからもよろしくお願いします!」

「仕方ねえ、十代目が信用するっていうなら俺もします」

「これからもサポートよろしくな!」


ツナに続くように口々に言う獄寺と山本。
三人の態度にメカはほっとしたような、嬉しそうな表情で笑った。


100407




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