店を出た私は、先に出た銀髪の男の後ろ姿に思わず声を掛けた。


「貴方、やりますね」


男はゆっくりと振り返り、私を見てにやりと笑う。


「あんたもな」


結局。勝敗は決まらなかった。ほぼ同時にスプーンを置いた私たちに、すっかり会場は静まり返った。
審判は困ったようにオロオロと辺りを見回す。横の主催者のおっさんはガタガタ震えながら「まさか本当にアレを時間内で食べ切るやつがいるとは」と呟いた。
つまり、誰も攻略できる者のいない前提の催しだったらしい。それで敗者には高額な金額を請求するというのだから、とんだ悪徳商法ではないだろうか。

私も彼も自分の勝ちを主張し、譲ろうだなんて一切考えなかった。ただでさえ金欠なのに、金なんて払えない。
主催者側は私たちの強行な態度に押し切られるようにして同着とし、私たちのパフェ代を全て負担した。ただひとつ、条件をつけて。


「今後立ち入り禁止だって。自分が主催しといて思うようにいかなかったのを棚に上げるなんて酷い店ですよね」

「あー、だけどあのパフェ、あんま美味くなかったから俺いいわ」

「あ、やっぱりそう思う?」


大した味も出せない癖に一流と名乗って何になるのだろう。ただのイケメンカフェかと問いたい。隙あらばお縄を頂戴したいくらいのぼったくりだ。


「でも、いい食いっぷりだったぜ」

「貴方こそ」


私の言葉に男は不敵な笑みを浮かべると、特別にやるよ、と名刺らしきものを私の手に乗せた。


「…万事屋銀ちゃん?」


住所の上の文字を読み上げると、男は得意気に笑う。


「おう、困った事があったらいつでも来いよ。銀さんがぱぱっと解決してやっから。でも面倒事は持ち込まないよーに」


なんだか矛盾している。結局頼っていいのか悪いのかわからない。だけどその適当具合がまた、好印象な気がした。


「またな、名前ちゃん」


彼――坂田銀時は言って、ひらひら手を振りながら私に背を向けた。

彼が真選組内では色んな意味で知られた人だとか、沖田隊長の友人だとか、なぜ私の名前を知っていたかとか、そのあたりを知るのはこの後のことである。
兎に角、私と銀さんはこうして甘味仲間になったのだった。



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