進展のないまま、半時程経過。
覆面男(強盗犯らしい)は、私の首筋に銃を突きつけたまま要求を呑むように言っている。

…それは良いのだけれど。


「真撰組はまだかァァァァ!!」


そう。肝心の”要求を請求する相手”がいないのであった。
”真撰組”という組織は話を聞く限り、江戸の治安を守ることを主とした対テロの警察特別組織らしい。

強盗を働いて女を人質にとったら現れるだろうと犯人は思っていたみたいだが、肝心の真撰組は一向に姿を現す気配すらない。微塵もない。はじめこそ「早く助けてくれ!」と身を硬くしていた私だけれど、ここまでくると緊張感もへったくれもないので妙に覆面男に同情する始末。


「あの…ちょっと足疲れたから座っていい…ですか?」


耐え切れずに声を上げると、男に泣きそうな声で返された。


「そんなもん我慢しろ!なんで来ないんだよチクショー!!」


…不憫すぎる。
そんな泣きそうな声で言われたらなにも言い返せないのでないか。が、私の足も限界が来ていた。立ちっぱなしで身動きできず半時。田舎からでてきたばかりで疲労も大きい。更には運動とは無縁の生活をしてきた極限の運動不足体質。そろそろ、本ッ当に限界!

犯人の堪忍袋の緒にも限界が来ていたのか、改めて銃を握りなおすと集まっていた野次馬たちに向かって宣言した。


「あと三分で奴らが来なかったら、この女を殺す!」


どよめく聴衆。私に向かって手をあわせる人までいる。チクショウ、お前らあとで覚えとけよ!

(ああ…もうだめ、)

犯人の指が引き金にかかるのと、わたしの足が悲鳴を上げて膝頭がカックンとなるのは…ほぼ同時だった。


「おっと、手が滑った」


聞こえた涼しげな声と、突然の爆撃音。
一瞬、呆気にとられた犯人の拘束の手が緩み、私は崩れ落ちるように膝をついた。

(助かった、私の足…!)

へたり込んだまま辺りを見渡すと、バズーカで打ち込まれたらしく、電話ボックスが木っ端微塵になって私たちの背後で灰と化していた。我に返った強盗犯は銃を構え、勇敢にも打ち込んだ者がいると思われる方向へと目を向ける。


「な、何者だ!!」

「それはこっちの台詞でさァ」


巻き起こる土煙。そこからゆらりと姿を現したのは、なんと若い男だった。
蜂蜜色の髪に悪戯っぽい顔立ちの彼は、男というよりも少年といったほうがまだしっくりくる。野次馬の人々が感嘆の声を上げた。


「俺が来たからにはただじゃァ返しませんぜ。真撰組一といわれる剣の使い手、一番隊隊長、沖田総悟が来たからには」



犯人は怯んだように一歩下がった。






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