2 そんなわけで、私は隊長の部屋から追い出されてしまったのである。朝から驚いて飛び上がった程なのに、拍子抜けだ。 「でも人が心配してるっていうのに、酷すぎません!?」 「まあ、でも隊長の意見もわかるけどなァ、俺」 私の隣に腰掛ける茶色くん(※4話参照)は、曖昧な相槌を打つ。一番隊所属の茶色くんは、何かと親身に私の話相手になってくれていた。今一番私が気軽に話せる相手でもある。 不満顔の私を宥めるように、茶色くんは話を続けた。 「山崎さんのいうように、仕事が仕事だからね。しかも一人で、だろ?怪我してなくても、かなりの血だったらしいし…」 朝の隊長の噂は既に広まっているようだ。山崎さん、必死に隠蔽しようとしていたけど、人の口に戸は建てられないって言うしね。 血、と聞いて先ほどの違和感を思いだした。 「そう!それ、沖田隊長本当に怪我してないのかな?だってさ、あの量の血が流れた筈なのに、傷見当たらないし…見えないところだから、無理してるとか…」 まくしたてる私に対して、茶色くんは冷静だった。少し躊躇うような素振りを見せたが、じっと私をみて静かに切り出す。 「いや…隊長が大怪我を負うことは、あまり考えられない。俺がおもうに、あれは沖田隊長の血じゃないね」 「…と、いうと?」 「簡単にいうと返り血、かな」 返り血。つまり沖田隊長の血じゃなくて、敵を斬った際に付着したもの。 そっか、沖田隊長は強い。簡単にはやられない。返り血ということは、私には思いつかない発想だった。きっと茶色くんは長く沖田隊長の側にいるから、そういう光景は見慣れているのかもしれない。 「返り血だなんて…余計に心配じゃん」 「心配?安心じゃなくて?」 「隊長が怪我を負ってなかったのには、凄く安心だけど…でも、人を斬る方が百倍、つらいじゃない」 私としては、当たり前のことを言ったつもりだったんだけど――茶色くんは興味深そうに私を見ていた。「何かおかしい?」と尋ねた私に唇だけで笑い、そして目を細める。 「名前ちゃんってさ、沖田隊長のことそんなに気になるの?」 (気になるって…、) 一瞬その意味が理解できなかった。でも意味深な茶色くんの表情に、それが…なんというか、好意、を持っているかそういうことだと理解。理解したと同時に頬に熱が集まる。 「ききき気になるって何よ!まぁ、一番身近な上司だし、ほら、なんつかあんなおとなしいとこっちの調子がでないっていいますか!」 「ふーん。…ま、そういう事でもいいか。でも沖田隊長は薄情だよなぁ、女の子がこんなに健気に心配してくれてるのにさァ」 「私、女の子って柄でもないし!みんなが茶色くんみたいに優しければ嬉しいけど!」 自分でもよくわからないまま、あはははと笑っておく。茶色くんも爽やかな笑みを浮かべながら、とんでもないことを言い出した。 「妬けちゃうな。名前ちゃんは他の男のことばっか気にするんだもの。俺も名前ちゃんに心配されたいな」 「し、心配しますとも。友達だし」 「友達、ね。…俺だけ特別に、ってのは無理?」 はい?え、どういう? 今の友達としての話じゃなかったの? 「ちゃ、茶色くん…?」 特別に…て? もう何がなんだか、思考停止寸前の私は多分、真っ赤だと思う。言葉もでない私の前で、彼は相変わらず爽やかだった。 |