1 縁側、いつも私がこっそり休息を取る縁側に、黒い染みのようなものがこびり付いていることに気が付いた。昨日までは確かになかったのに、何の汚れだろう。意味もなく不思議に思って顔を近づけ、香った鉄臭さに吃驚して息を止めた。 これ、血、だ。 慌てて周りを見渡すと、庭からぽつりぽつりと血痕が続いているようだった。そして縁側へと上がり、それは廊下の先まで続いている。急いで血痕を追い、廊下の角を曲がったところで誰かにぶつかった。 「うわあぁッ!」 「え、えええ名字さん!?」 山崎さんだった。相変わらず、山崎さんは神出鬼没でよくわからない人だ。どうしてこんな廊下でうずくまって、と思って彼の手元に目を向けると、雑巾。 「や、山崎さん!それって血痕!」 あわあわと口走った私に、山崎さんは眉を下げて、微妙な困ったような笑いを浮かべた。 第七話 「沖田隊長ォオ!生きてますか!!」 スパン!ともの凄い勢いで、襖を開けた。開けながら(仮にも)上司で異性の部屋にノックも無しなのはどうかと、自分でも思った。思ったけど、それはこの際後回しだ。今は緊急である。 「ももももしかして、二度と刀にぎれない身体になったとか、片手義手になったとか、そんな、沖田隊長がまさか!わわ私に出来ることがあればなんなりと!……って、あれ…?」 勢い余ってまくしたてた私の目の前には、いつもと変わらぬ様子で、寝転がりながらせんべいを貪り食う隊長の姿があった。しかもジャンプのオプション付き。…日曜日のお父さんか! 「…なんか物凄い怪我で、今日は仕事ができない位だとか聞いたんですけど…」 自分の想像と、目の前の現実と。そのギャップにぽかんとした。立ち尽くす私を前に、隊長はばりん、とせんべいをかじる。 「朝から元気ですねィ、名前。御存知の通り俺は今日仕事できない位のダメージ食らったんで、さっさと出て行って療養させてくだせェ」 「……隊長?」 「なんですかィ」 「ど、どこが重体ィイ!?なに、なんなのあんたどこが怪我人んん!?」 黙々と血痕を拭き取る山崎さんから聞いたのは、沖田隊長が今朝方帰ってきたという話だった。 (任務が任務だったからね。近藤さんにバレないように、直接部屋に行ってもらったんだけど) (血が、凄くてさ。今日は隊長休みってことになってるから、名字さん様子見て来てよ) そんなこんなで慌てて来てみたのだが、見事に空回った。 「メンタル面が怪我人なんでさァ。ほら、あんたみたいに騒がしい奴がいるからな」 人を馬鹿にしたような笑いは、いつもと変わらないものだ。が、心なしかちょっと元気がないような気もする。 「本当に大丈夫ですか?若いからって無理、しないで下さいよ」 「じゃあとりあえず、 名前がしおらしいのが気持ち悪いんで、一発殴らせてくだせェ」 ………やっぱりむかつく隊長だった。 |