「――…って話を山崎さんに聞いたんですよ」

「山崎ィィ!!名字にに言うなって言ったろォオ!!」


お茶を差し入れたついでに、さっきの話を副長にした。予想通り副長は額に青筋を浮かべて、今はいない山崎さんに向かって声を張り上げる。


「つか、お前も山崎に口止めされたんだろ。なんでわざわざ告げ口したんだよ」

「ちょっと気になる事があったんで。あ、別に山崎さんを陥れたいわけじゃないですよ」


実際、少し良心は痛んだのだけれど。こう見えて私は小心者だから、副長に告げ口なんて緊張したしね。
それでもこうしてわざわざ危険を犯してまで質問しに来たのだ。答えてもらわなければ困る。


「副長は、私をまだ疑ってるんでしょ?私に対してのあの条例がまさにそう言ってますもんね」

「あたりめーだ。まだ春雨と関わりないなんて証拠、ねぇからな」

「それ以外になんか、隠してません?」


そう、私が聞きたかったのはそれだ。私って(我ながら)鈍いし世間知らずだけど、一週間過ごすうちに不可解な違和感を感じていた。いくら女で訳あり隊士とはいっても、皆不自然なほど私を避けるようにしてるのだ。そして、今日のそれはより顕著な気がしてならない。


「私を疑ってるからですか、いい加減、気になるんです」

「…そうか?俺は上手く隊に溶け込んでるようにみえるが」

「それは沖田隊長が私をこき使うからでしょ!まぁ…一番隊の人は何人か優しくしてくれるけど」


お茶汲んでこい雑用やっておけ、ならまだいい。副長への嫌がらせの片棒担がされたり暇つぶしに突き合わされたり、正直他の隊士との関わりがなかったのは事実である。
ため息を吐いたら、何故か土方さんは黙って一瞬動きを止める。…今、何に反応したのだろう。もしかして。


「もしかしたらなんですけど、それって今日の沖田隊長となんか関係あったりします?」

「……ねぇよ、勘違いも甚だしい」


あっさり否定された。自分ではそうだと思ったのに、やはり違ったか。冷静になって考えれば確かに私と沖田隊長のことを関連させるなんて、強引すぎる考えだ。
土方副長は私の相手をする気はさらさらないようで、それきり黙って刀の手入れを始めてしまった。土方副長はわからない人だ。目つき怖いし、すぐ怒るし。でもなんだか信頼は厚い(そういえば、隊服ミニスカにしたのって本当にこの人なのだろうか)。私に必要以上に関わらないのは、警戒しているからか興味がないからか。


「やっぱり私を疑ってるんですね。あーあ、私信用ないな我ながら」


どちらにせよ、結局はそういうことである。すっかり冷めたお茶を下げようとしたら、土方副長はこちらを見もせずに、私を引き止めた。


「おい、そろそろ遅いからもう帰れ。山崎に送らせる」


いつもは送り迎えなんてしないのに。しかも、まだ日は高い。それでも何か考えがあるのだろうと返事をする。


「名字」


今度こそ退出しようとした私を、副長の声が静かに追いかけた。


「明日、総悟を頼むな」


090517




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