「それにしても犬畜生の餌だなんて、そんなぴったりな表現よく思いついたよね」


場を和ませようとしたのか何なのか、口を開いたのは山崎さんだった。あはは、と笑いながらこちらをみた山崎さんは、しかし直ぐに顔が硬直する。


「おい、山崎どういうつもりだてめェ」

「ふ、副長誤解ですゥウ!」

「何が誤解だコラァ!!」

「俺は豚の餌だなんて思ってな、ぎゃあああ!」


それまで辛うじて繋がっていた堪忍袋の緒が切れたらしい。副長は刀まで抜いて山崎さんに凄みを効かせていた。
…実際、真選組の食卓はかなり過激だった。でもそれは毎日のことで、慣れてしまったというのも事実。あぁ、慣れって恐ろしい。


「そもそも、犬の餌っていうのは沖田隊長の受け売りなんですよ」


今にも山崎さんを切り倒しそうな副長に、私は助け舟をだすつもりで口を挟む。すると副長は虚を突かれたような顔をして振り向き、刀を収めた。


「何でもマヨネーズぶっかける変人なんだって聞かされて、嘘だぁって感じだったけど本当に変人でしたね。沖田隊長は何だかんだで信用できます」


ね、とからかうように副長の顔をのぞき込んでから私はその沖田隊長の姿がないことに気づく。あれ、昼は居たのに。
そのとき、近藤局長が入ってきた。


「おぉ、今日もうまそうな飯だな!名前ちゃんは料理が上手くて助かる!」

「ありがとうございます!」

「ん?どうしたトシ、妙に静かだな」

「なんでもねェよ」


局長にご飯をよそりながら、また沖田隊長が居ない席を眺める。忘れてるとか、まさかないよね。


「沖田隊長がまだ来てませんけど…どうしたんでしょうか。またどっかでサボってやがるんですかね」


言ってから、その場の空気の変化に気づいた。妙に緊迫した雰囲気で隊士たちが口を噤んでいる。何が原因かわからずに私が首を傾げると、土方副長が短く溜め息を吐いて「ほっとけよ」と呟く。


「どうせかぶき町あたりをほっつき歩いてんだろ」

「私は今日は1日稽古って聞きましたけど、」

「名字さん!!」


山崎さんが突然叫ぶように言ったものだから、私は吃驚して飛び上がった。静まり返った部屋に山崎さんは、我に返ってたように笑顔を取り繕って立ち上がる。


「ごめん、ちょっと食料倉庫に確認行くの付き合ってもらえる?」




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