1 本日の夕飯は肉じゃがだ。昼食、夕飯をつくるのは私の仕事である。大抵の場合は山崎くんが手伝ってくれるけれど。 真選組に来てもう10日ほどが経ち、それなりにこの生活にも慣れてきた。けれど、まだ春雨の接触はなかったので、残念ながらいまだに賞金首だという自覚はない。むしろ、保護と軟禁を兼ねたこの生活は仕事も居場所も提供されて非常に助かっている。男所帯ということもあって戸惑うことも多あったが、みんな助けてくれて中々楽しい生活になっていた。 ………それでも、私はせっかく作った肉じゃがが、犬の餌にされるのだけは我慢なりません。 第六話 白い物体が容赦なく肉じゃがに襲いかかった。土方副長の手によって。 「副長ォオ!何してくれてるんですかァ!」 「何って、更に美味しくしてやろうと思ってだな」 「どこが美味しく!? あああ私の肉じゃがが犬畜生の餌にィィ!」 私が阻止する間も無くぶちまけられたのはマヨネーズ。しかも「ちょっと味付けに」なんていう可愛いものではない。副長の手にかかれば「マヨネーズ入り肉じゃが」が、「肉じゃが入りマヨネーズ」へと姿を変えるのも簡単。私の肉じゃがはみるみる、悲惨な姿になった。 「ったく、なんだよその目は」 「気にしないで下さい。肉じゃがの喪に服していたいだけです」 「喪だァ? むしろ生誕だろ。美味しい肉じゃがの生誕」 「そうですか、私の肉じゃがは犬の餌以下ですか」 他の隊士たちはマヨネーズに埋もれた肉じゃがを見て、哀れむような目をした。うんわかってるよ、それはもう食べれないよね。 「でも実は土方さん対策で、もう一つの器に半分とりわけておいたんです。流石にそろそろ犬畜生の餌は卒業したいですからね」 私の言葉に、うなだれていた隊士たちは歓声をあげた。 それもその筈。なぜならば、今まで私が作った料理はことごとく、副長のマヨネーズの餌食になっていたのだった。つまり隊士たちはここ最近、マヨネーズ以外のまともな食事は食べていない。(ちなみに、沖田隊長は何故か自分の分を確保済みだったが) 「おい、さっきから犬の…ってなんだよ」 「犬畜生の餌ですか?土方副長の今まさに食べているそれのことですが」 「…(はっきり言いやがるなこいつ)おい、お前も一度食べてみろ!この美味しさがわからないわけ」 「わかりませーん。私ソース派なんで!」 新しい肉じゃがの皿(今度こそ副長には気をつけなければ)を出すと、隊士たちは目を潤ませて箸を伸ばした。美味しい、と食べてもらえるのはとても嬉しい。だからまた頑張ろうと思えるのだけど。 …逆に土方副長みたいなのは、腹立つけどね! |