4 私はただ平和に江戸で出稼ぎできればそれでよかったのに、そもそも何でこんな事態に巻き込まれなければならないのか。 私には、春雨がどうとか指名手配がなんだとか、未だによくわからない。私は政治に疎い。春雨なんてニュースでたまに取り上げられてることしかわかんない。 そして、この真選組のことも曖昧なのだ。江戸を守る警察組織なんだよね? 少なくとも、私の地元にそんなものはなかったから。 「なんか…色々ありすぎて訳わかんない」 呟いたら、隊長は「人生そんなもんでさァ」と笑う。 「適当にやってりゃあいい、何が起こるかわかんないからねィ」 「でも江戸って凄いエキサイティングなところですよね。人質とか日常茶飯事なんでしょ?」 「まさか。あんたくらいですぜ」 「えええ?!」 どんだけ運が悪いんだと軽く絶望。と、お腹が情けない音をたてた。 「あ、厨房に行くの忘れてた…」 お昼代わりに、何か貰おうと思ってたのだ。スカートの衝撃が強すぎてすっかり忘れていた。 本日何度目かわからない溜め息を吐いたら、頬に何か固いものが押し付けられた。 「な、なんすか!」 「これでも食ってな」 半ば押し付けられるように渡されたのは美味しそうな林檎。呆然とする私。隊長は馬鹿にするように私を見下ろす。 「俺は腹減ってないからねィ」 「いいんですか?」 「あぁ。土方の部屋から盗んできたやつだけどな」 にやり、と妙な笑顔を浮かべた隊長を眺めながら、私は渡された林檎をかじる。 それはなんだか甘酸っぱい味だった。 090113 |