私はただ平和に江戸で出稼ぎできればそれでよかったのに、そもそも何でこんな事態に巻き込まれなければならないのか。
私には、春雨がどうとか指名手配がなんだとか、未だによくわからない。私は政治に疎い。春雨なんてニュースでたまに取り上げられてることしかわかんない。
そして、この真選組のことも曖昧なのだ。江戸を守る警察組織なんだよね? 少なくとも、私の地元にそんなものはなかったから。


「なんか…色々ありすぎて訳わかんない」


呟いたら、隊長は「人生そんなもんでさァ」と笑う。


「適当にやってりゃあいい、何が起こるかわかんないからねィ」

「でも江戸って凄いエキサイティングなところですよね。人質とか日常茶飯事なんでしょ?」

「まさか。あんたくらいですぜ」

「えええ?!」


どんだけ運が悪いんだと軽く絶望。と、お腹が情けない音をたてた。


「あ、厨房に行くの忘れてた…」


お昼代わりに、何か貰おうと思ってたのだ。スカートの衝撃が強すぎてすっかり忘れていた。
本日何度目かわからない溜め息を吐いたら、頬に何か固いものが押し付けられた。


「な、なんすか!」

「これでも食ってな」


半ば押し付けられるように渡されたのは美味しそうな林檎。呆然とする私。隊長は馬鹿にするように私を見下ろす。


「俺は腹減ってないからねィ」

「いいんですか?」

「あぁ。土方の部屋から盗んできたやつだけどな」


にやり、と妙な笑顔を浮かべた隊長を眺めながら、私は渡された林檎をかじる。
それはなんだか甘酸っぱい味だった。


090113




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