1ヶ月。命を狙われるなんて迷惑な事態に巻き込まれてしまったが、それも1ヶ月の辛抱だってことだ。しかも結果的に、私は住みかも仕事も見つけることができた(1ヶ月だけだけれども)。彼らの側にいれば慣れない江戸生活で困ることもないだろう。


(ちょっとこの組織が気に食わないとしても、これは好条件だわ)


ちらり、と沖田を見ると、勝手にしろとばかり鼻をならした。私が真撰組で働くのが気に食わないようだ。


「ふぅん、珍しいこともあるんですねィ。土方さんが女庇うなんてさァ」

「…総悟」

「違いやすよ。ただ不思議だっただけでィ」


そこで漸く私は手錠を外してもらえた。…最初からなんかの犯人でもなく、逆に保護対象の人に手錠をかけるとか、やっぱりちょっと酷いと思う。
沖田はちょっと乱暴に私の手を掴み、鍵を差し込んだ。さらさらした蜂蜜色の髪が私の頬を擽る。


「   」

「…え?」


思わず沖田を見返したが、彼は何もなかったかのようにそっぽを向いた。


「今から他の隊士にアパートを案内させる。とりあえず今日は休んで、詳しい明日だ」


土方の言葉に、私は席を立つ。頭を下げて部屋を立ち去る時にもう一度沖田の様子を伺ったが、やはり何の変化はない。


――楽しくなりそうですねィ


私は手錠を外された時に呟かれた、その言葉の真意を想像することが出来なかった。


*


部屋に残された土方は、自分に背を向けて立つ沖田に恐る恐る声を掛ける。彼がまだ不機嫌だと思ったのだ。


「総悟、名字はお前に任せてもいいか」


しかし土方の推測は外れ、振り向いた沖田は意地悪い笑みを浮かべていた。


「本当ですかィ。そりゃあ嬉しいですねェ」


普段はあまり感情を出さない彼がこんなに素直なのに少し疑問を感じたが、土方は何も言わずに煙草に火をつけた。
その時の沖田は、おもちゃ箱を前にした子供のように嬉々とした笑顔だった。


080621



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