3 聞かなくてもわかる、やばいに決まっている。だってそれって、あの男が私を身代わりにしたってことでしょ? 「なんでまた私が!」 「運が悪いな。本来は春雨なんて放っておきたいところだが、あの高杉が中枢にいるらしいからな…真撰組手を引くわけにもいかねーんだよ」 「そんな…じゃあ何、私殺されるかもしれないの」 あっさり肯かれた。…これ、どう反応しろと。まさか命を狙われるだなんて思ってもいなかった。冗談じゃない。 黙った私に、沖田が笑った。 「よかったじゃねーか。将来はどこぞの怪盗やら殺し屋でしょ。半分叶ったようなものでさァ」 「それとこれとは話が違う!」 そりゃあさっきは夢とか並べてみましたけど、ぶっちゃけ叶うなんて思ってないっていうか、そこまで馬鹿じゃないですよ私。 「兎に角、ほとぼりが冷めるまでは用心することだな」 「それって自分の身は自分で守れってことですか?」 「そうなりますねェ」 沖田の口調からすると真撰組が助けてくれる気はないのだろう。しかし春雨なんか相手にして、一般市民が無事でいられるわけがなく、私には守ってもらえるあてもない。 不安気に土方に視線を送ると、ため息と一緒に彼は紫煙を吐き出した。 「こっちとしてはあんたの命なんか知ったこっちゃないが、あんたを囮に春雨を叩けるかもしんねェ」 「…まさか守るっていうんですかィ」 「そんな顔するな、総悟。今真撰組が人手不足なのはわかってるが、ここでこいつを放っておいて死体を見つけんのは目覚めが悪いだろ」 「どうするっていうんでィ」 「名字を、真撰組で雇う」 大それたことを言ったらしい土方を、驚いたように沖田は見た。しかし、私にはいまいち今の発言の意味が掴めていない。 「でも、それじゃあ余計に目立ちまさァ!」 「だから囮だっていったろ」 「だからって、」 「…あの、結局私はどうなるんですか?」 恐る恐る声を掛けた私をちらりと見て、土方は「山崎、」と誰かを呼んだ。まもなくやってきた黒髪の男に、何かを素早く指示して、ようやく私へ口を開いた。 「とりあえず1ヶ月、あんたは俺たちが保護する。近くのアパートを探すから適当に住め。で、毎朝8時出勤だ」 「…それって?」 「あんたには真撰組で働いてもらう。前に言ったように今人手が足りない上、うちは外部に情報が漏れないように女中はとらないことにしているからな。掃除、洗濯、雑用…働いてもらうぜ」 つまりは私に女中の変わりをやれってことか。人手が足りない真撰組が、私のためだけに少ない隊士をまわすわけにはいかない。なら私自体を真撰組の内部に取り込んでしまえば一石二鳥である。 「立場的には事務隊士として紹介するが、バイトのようなもんだと思ってくれりゃいい。とりあえず、1ヶ月だ」 |