むかし、お母さんが言った。


「こんな田舎ではね、華やかな人生を送る事ができないのよ。名前、むりなの、むりなのよ。あなたが国家秘密機関の殺し屋になることも、世紀最大の怪盗になることも、さらには貧しい下働き生活…でも実はどこぞの王女またはその美しさを見初められて国を動かす美人妃になることもむりなのよ!」


そして、私は決意した。都会に行こうと。




第三話




「無理だろ、絶対無理だろ!何それ、都会も田舎も関係ねーじゃん。殺し屋とか怪盗とかどこの小学生だよ!!」


人が切々と幼き日のあの衝撃のシーンを語っているというのに、目の前のこのヘビースモーカーは持っていた資料を机に叩き付けて怒鳴った。


「なんですか、私はただ言われたとおりになぜ都会へ出ようと思ったか答えただけじゃないですか」

「絶対ふざけてるだろ、人を馬鹿にするのも大概にしろよテメェ」

「そうですぜ、名字。いくら都会に来たからといって国家機密機関の殺し屋の座は譲らねーでさァ」

「お前も黙ってろ、総悟」


お母さん、都会に来て華やかな人生を送れるといったのは嘘だったんですか。私都会に来てから人質になったり手錠掛けられたりしてばっかなんだけど。しかもこの取調べカツ丼出ないんだけど。


「よかったじゃねーかィ、手錠掛けられるなんて怪盗の夢は叶ったようなものですぜ」

「うるさいこのサド隊士」


さてこの状況を説明しよう。

私は今、真撰組とかいう警察組織の取調室にいた。目の前に座る目付きの悪いヘビースモーカー男の名を土方という(らしい)。そしてその隣に座るのは、私をここに連行した憎き青年、沖田総悟である。

土方の手にある資料にはどうやら私の事が書いてあるらしい。そしてどうやら家出したのもばれた(最悪のパターン)。

「名前は名字名前。田舎から出てきた家出娘で、パスポートは偽造。目的は特になし。ここまでは間違いないか?」

「あ、ちょっと待って下さい。パスポート偽造はちゃんと偽造専門店でやってもらったんで不正なものじゃないです」

「偽造の時点で不正だ、死ね」


今時の警察は死ねとか普通でいうのか。私まだ何も悪いことしてないのに酷くない?


「そもそも、なんで私がこんな容疑者みたいな扱いを受けなきゃならないんですかね」

「諦めろ、名字はそういう運命の元で生まれたんでさァ」


ふざけた様子の総悟の頭を、土方が叩いた。
そんなコントのような二人のやり取りを見せられても、別に私は笑えなかった。つーか、手錠掛けられて笑えるか!


「で、何の用ですか」


あれか、家出しからから。家族が捜索願い出してて連れ戻されるとかそんなんか。でも私は戻るもんですか!あんな田舎には帰らないもんね!


「感傷に浸ってるとこ悪いが、捜索願いは一切出てない」

「コノヤロー、少しは心配しろよ親ァァァ!!」


でもそうすると手錠掛けられるような事した覚えがないんだけど、マジで。
パニックに陥る私の前で、土方は余裕気に煙草を蒸かす。


「安心しろ、お前は犯罪を犯したわけじゃない」

「じゃあなんで、」

「この前の人質の件だ」


――この前の人質事件についてしっかり話きかせてもらいますぜ。

そういえば、そんな事を言われたきがする。でも、私はただの被害者だ。





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