なんていうか、見事に会話になってない。しかし青年はそんなの気にする様子もみせず、先程捕らえた攘夷浪士の前にしゃがむ。


「こんなんで気絶するなよ、もっと恐ろしい拷問がまってんだからなァ」


言いながら刺さったままだった刀を抜いた。その拍子に血が噴き出し、青年の靴と隊服の裾を濡らす。

呻いた男を蹴飛ばして、手錠をかけた。そして手に付着した血を舐めた。


(やばい、この人平気で人、傷つけるんだ)


彼の場合、仕事柄仕方がないとも言えるだろう。が、私には楽しんでいるように見えた。それが恐ろしかった。

愉快そうに血を舐める彼と目が合い、慌てて背ける。ここにいたら何をされるかわかったもんじゃない。私に火の粉が降りかかる前に、この場を離れよう。


「どこ行く気ですかィ」


手を掴まれた。


「どこって、帰らないと、」

「どうせ宿なしなんじゃないですかィ」

「(なんでわかるのよ!)」

「みたらわかりまさァ。田舎娘の出稼ぎって感じ」

「勝手に人の心読むなアア!」


終わらない押し問答に、無理やり振り切って逃げようと決意した瞬間、ガチャリという金属質の嫌な音がした。まさか、と恐る恐る目線を手元に下げる。


「悪いけど、実はあんた、捜索命令が出てるんでさァ。この前の人質事件についてしっかり話きかせてもらいますぜ」


案の定、がっちりと固定された手元。逃げ出さないようにと捕らわれた私はさしずめ、罠にかかった鼠というところか。

まさか手錠をかけられる日がくるなんて、考えもしなかったよ、コンチクショウ!



080407



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