剣術には詳しくないし都会だからかもしれないけれど…それにしても、こんな乱闘はめったに聞いたことがない。
茫然と見守る観衆の中、一際大きな音が、続いて男のうめき声が響いた。


「なんだ、もうおしまいですかィ。頼りねーなァ」


(あ、あれ、この声どこかで…)


先程のざわめきが嘘のように静まり返った。そして中心の二人から逃げるように皆、後退る。


「くそっ、俺がお前みたいな餓鬼に負けるわけ、」

「…へぇ、まだ言い返すんですかィ」


青年だと思われる声が、冷たく、相手を追い詰めた。それに比例するように周りの野次馬たちがはけ、私の前の視界が開ける。


「う、わァァァァ!」


前触れなしに張り上げられた男の雄叫びに、辺りにいた野次馬は飛び上がり、三メートル近く下がる。そして不意に、こちら側にいた攘夷浪士の男と、身を乗り出して見ていた私の目が合った。


「え、」


私が状況を理解する間もなく、抜かれたままだった刀を手に、私に刃を向けて男が向かってきた。
動けない。
この状況、まるで三日前と同じだ。


(斬られるッ)


とっさに目を閉じた。斬られた痛みが襲うのを覚悟したが、いつまでたってもそれは襲ってこなかった。


「ぎゃあぁ!」


けたたましい悲鳴に目を開けると、私を斬ろうと迫ってきた男の手のひらを、別の刀が貫通して地面に縫い付けている。


「自分が危うくなったから一般市民を襲うなんざ、侍の風上にもおけねーな。とっととくたばれ、この下衆野郎が」


冷たい言葉に顔を上げると、一人の青年が立っていた。この男と乱闘していた噂のオキタソウゴ。そして、顔色ひとつ変えずに、男の手のひらを貫通させた青年。

ただひとつ、予想外なことがおきた。青年の顔に見覚えがあったのだ。



「あああ!あなたこの間のッ、滅茶苦茶失礼な新人隊士っ」

「あんた、この前の暴力人質女じゃねーか」


そう、それはあの忌まわしい事件の時に、かなり遅れて駆けつけてきた挙げ句、最終的に私が平手打ちをかました青年だったのである。


「あんた、また斬られそうになるなんて、人質とか被害者になんの趣味かなんかですかィ?」

「そんなわけ、」

「こりゃあ丁度いいや。一緒についてきてもらうぜィ」

「ちょ、意味わかんな」

「早くパトカーこねーかな」

「人の話きけエエエ!!」





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