1 新聞を手にクスクスと笑う沖田に、土方は眉を寄せた。 「なに、笑ってんだ」 「あぁ土方さん。これ、この前のまだ一面に載ってんでさァ」 沖田の指先には、三日前の強盗事件の記事があった。まだ記憶に新しい。 確か、攘夷浪士の一人が強盗の挙げ句に女を人質にとった事件だ。そういや沖田が担当していた気がする。 「あの人質女、なんだったんだろうねェ」 何時もと様子の違う沖田に、土方は一抹の不安を覚えた。 第二話 三日だ。わたしが江戸へ出てきて三日も経ったのだ。 ぼんやりと思いながら、目覚まし時計のアラームを止めた。いい加減このベッドの硬さにも慣れてきたところである。 決してサービスの良いとはいえない安ホテル(いかがわしくない所ね)も、今日限りでチェックアウトする。サービスは良くなかったが、居心地は割と良かった。自宅の玄関先くらい良かった。江戸に来てから、所持金の少ないわたしを迎えいれてくれたホテル、ギシギシいう硬いベッド、コインを入れなきゃ点かないテレビ…なんだかんだで愛着がわいてしまい、後ろ髪引かれる思いだ。 しかしわたしは今日ここを後にせねばならない。 「だって所持金が一万切ったんだもん!」 この3日間、就職活動も寝床の確立も疎かにして観光にうつつをぬかしていた自分を張り倒してしまいたい、ああ、なんて馬鹿!(だって江戸来たの初めてだったし!) それはともかく、早く行動を始めなければ日が暮れてしまう。急いで荷物をまとめて、とりあえずこのホテルを出よう。そして、早いうちに家を探してしまおう。 実は、この前の人質事件はそれなりにトラウマになっていた。私の行動が遅れたのにはそのせいもある。そりゃあそうでしょう、だって生きてきて銃向けられたの初めてだったし。 だから少し就職先や住みかも気をつけて選びたいところなのだ。 (どうしようかな) 来たばかりのとき、一度不動産屋に向かった。しかし襤褸アパートで家賃が月々13万とかいう法外な値段で(江戸は土地が高い)とてもわたしには払えない物件ばかり。 我ながら、考えが甘すぎたのだ。 |