冗談じゃない。

思いっきり反対した土方の努力虚しく、彼らはその申し出を受けることになった。
再試合を取り付けた近藤たちは、相手方の道場へ向かう。相手は、土方に闇討ちを仕掛けた張本人だ。相手は自分たちの腕に自信を持てず奇襲をかけたくらいの奴なので流石に断られるかと思ったのだが、土方たちが相手方へ赴くという条件で許可をもらった。つまり、敵地に乗り込むということ。


「なに、あのガキ」


道具一式を背負って現れた少女に、沖田総司が不快げな目を向ける。


「話しただろう。千夜くんだ」

「ガキで、その上女の子だなんてね。僕が外される意味がわからないな」

「ガキって、お前もあの子も年は大差ねーだろ」


沖田は今回、試合の面子から外されている。前回も幼いという理由で試合から外されたので、出どころも不明である少女が試合に出ることが不愉快でたまらないらしい。それでも敵打ちと聞いてじっとしていられず、同行は許されたのだ。


「千夜くん、準備は大丈夫かな?」

「ええ、ご心配なく」


近藤さんの気遣うような言葉に、千夜はにこりと笑ってみせた。


「妙なことになってしまい、申し訳ありません。先生には私もいつもびっくりさせられてばかりで」


彼女は大人ぶって小さく溜め息を吐く。近藤は彼女の様子にくすりと笑う。


「養父さまも私のことは先生に任せっきりなので、私が言っても無駄ですし…でも、悪い人じゃないので信用はして大丈夫ですよ」

「そうか。私もあの方は信用に足る人物だと思う。だが万が一、千夜くんに危険が及ぶようなことがあれば私が身を呈して守ろう」


近藤は千夜をか弱い女子と見ていた。それは彼女の細い腕やまだ発展途上にある背丈から見れば仕方のないことだが、千夜は少し困ったように笑う。


「怪しいよね、あの子」

「…ああ。だが、ただのガキじゃねえってのは確かだ」


和やかな雰囲気を醸し出す二人の様子を見ていた土方と沖田は、互いに頷く。いつもは喧嘩ばかりしている癖にこんな時ばかり意見が合うものだ、と井上は溜め息を吐いた。




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