倒れていた青年は、土方歳三と名乗った。そして彼を迎えに来た大柄の青年は近藤、小柄な男は井上というらしい。
彼らは皆、多摩のあたりにある道場の仲間で、幼なじみであるという。


「先日の他流試合の報復ですか。逆恨みもいいところですね」

「お恥ずかしい話です」


井上は頭を掻く。まさかこんなことに、といった様子だ。


「世話になったこと、礼を言う。迷惑をかけた。俺たちはもう行くから、この事は他言無用でお願いしたい」


目が覚めた土方は、むっすりとした顔で言った。その言葉に近藤も井上も頷く。当然だ、これは私怨とはいえ、道場の威信に関わる。
しかし先生はとんでもないことを言い出した。


「ふむ。話はわかりますが、こちらの条件を飲んでもらわなければ了承できませんね」

「交換条件…ですか」


欲のない先生が、何かを要求するとは考えもしなかった。驚く千夜の前で、先生は微笑む。


「貴方たち、相手方を放ってはおかないのでしょう。なら、仕返しは再試合にして下さい」


そしてちらりと千夜を見る。


「私のお願いはひとつだけ。試合の面子にこの子を入れて欲しい」


呆気に取られたのは千夜だけではない。三人の男もまた、驚きに目を見開く。


「私はこの子の剣の師匠です。ひと通りの型は教え、彼女は強くなった。そろそろ試合をさせてみたいのです。しかし私はご覧の通り世から離れた身。彼女も理由あって、道場には通えない」


でも、と続ける先生の真意は読めない。


「貴方たちの報復試合なら、彼女はその身の上を明かさないでも試合をできるでしょう?」


先生の意見に、真っ先に反応したのは土方だった。彼は鋭い目を細めて、少し怒った風に先生を見つめた。


「悪いが、遠慮したい。俺たちは本気だ。相手も容赦はしないだろう。餓鬼のお守りをしている余裕はねェ」


土方の言い方はあんまりだったが、その通りというものである。先生が何を考えているのかわからないが、千夜のような者が居るのは迷惑という他ないだろう。


「彼女に怪我をさせるわけには…」


慌ててフォローをした近藤さんに、先生はにこやかに言うばかりだった。


「千夜は強いですよ。もしかしたら、貴方たちよりも、ね」





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