先生が出したお遣いがまもなく戻ってきて、青年の知り合いだという二人を案内してきた。


「この度は、トシがご迷惑を掛けたようで申し訳ありません」


まず頭を下げたのは、やってきた男のうち大きな身体をした方だった。


「トシは私の弟分のようなものなのだが、まさかこんなところで倒れているだなんて思思いませんで…。トシの命を救ってくれてありがとうございます!」


彼らは皆、胴着に袴といった格好で木刀を腰に下げている。どうやらトシ、と呼ばれるあの青年の危機を聞きつけ、そのままの格好で走ってきたらしい。


「いえいえ、大したことはしておりません。人か倒れていたら手を差し伸べる、これは当然のことでしょう」

「そんなことございません。貴方がいなければこいつは野垂れ死んでたでしょうよ」


もうひとり、小柄な、青年よりも年齢は上だと思われる男が言う。そして、そわそわと落ち着かないように周りを見回した。


「それにしても、こんな大きな屋敷。貴方はとても高貴な方なのでは…」

「おや、それでそんなに恐縮してらしたのですか」


先生は相変わらず穏やかな表情で、ほけほけと笑う。


「安心して下さい。ここは広いだけで、ただの荒ら屋にすぎませんから。住んでいるのも私と、お世話をしてくれている子だけでして、隠居も同然の身なのです」


迎えに寄越したあの子ですよ、と裏口の方を見やる。先生のお世話役の少年が、ちょこっと顔を出して会釈した。


「それに、あの青年を助けたのは私ではなくて、この方です」


ぽん、と肩に先生の手が乗る。
ぼんやりと彼らのやり取りを眺めていた千夜は、突然話を振られて慌てる。


「それは、どうもお世話になりました。この御恩は忘れません」

「あの私は別に…そこまで、おっしゃられても、」

「千夜、胸を張りなさい。一生懸命ここまで運んで、手当てをしたのは貴女でしょう?貴女は、いいことをしたのですよ」


千夜は先生に諭されて、頷く。
それを見ていた男たちは首を傾げる。


「彼女は、娘さんではないのですか?」

「ええ。ある方から預かっているお嬢さんなんです」


先生はそれだけ言うと、腰を上げた。


「彼の目が覚めたようですね。詳しい話を聞かせてもらいましょう」




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