13 「貴方たちも、ありがとう。助かりました。貴方たちが居なかったら、あの場を切り抜けられはしなかったわ」 鍛冶屋を出て、しばらく歩いたところで千夜は三人に言った。彼らは顔を見合わせる。 「いや、俺たちの方こそ千夜さんに助けられたし」 「的確な指示、驚いたぜ」 「あの簪がなければ、もっと戦いは長引いただろう」 三人の言葉は、謙遜などではない。事実、千夜の働きは素晴らしかった。あれには、三人も驚かされた。だが納得もしたのだ。なるほど、彼女には護衛はいらないわけだと。 千夜はゆるやかに首を横に振り、優しげに笑う。 「いいえ、貴方たちのおかげだわ。斎藤さん、原田さん、藤堂さんありがとう。感謝します」 恭しく頭を下げた彼女は、特別美しく感じた。にわかに千夜がとびきりの美女であることを思い出した三人は、赤面する。 「そうだ。これ、貰ってくれねぇか」 原田は、赤い頬を誤魔化すようにして袋から包みを取り出す。受け取った千夜が包みを解くと、中から一本の花簪。 「まぁ、可愛い。いつの間に…?」 「さっきだよ。時間あったし、戦いの最中で駄目にしてただろう」 「あれは、あんたを守りきれなった俺たちの責任だ。そんなもので申し訳ないが、貰ってくれ」 破落戸共を成敗した後、時間が余った時に近くの店で原田が見繕ってきたのである。特に珍しくなく、値段も手ごろなものだったが、千夜は顔を緩ませて喜んだ。 「嬉しいわ、ありがとう。大切にしますね」 早速髪にそれをつけた彼女に、原田は恐る恐ると、切り出す。 「なぁ、その礼ついでに教えてはくれねぇか。お前さんのこと」 ――それは、ずっと気になっていたことだった。 千夜は何故狙われているのか。千夜がどこぞの良家の娘であることは、聞いている。だがその身柄を拘束すれば幕府が動くとは、何故だ。 何よりも。 彼女の存在自体が不可解だった。あの的確な指示。振る舞い。紫苑の瞳が、底知れなさを感じさせる。 彼女を知りたいと、思わせるのだ。 「きっとそれは、知らない方がいいわ」 千夜は、はっきりと告げた。その言葉に迷いはない。微笑む彼女の煌めいた瞳は、明らかな拒絶を映していて。 それ以上問い詰めることは、できなかった。 |