12


鍛冶屋が小屋の奥から出てきたのは、宣言通り夕刻のことだった。


頭を潰されたと知るや、破落戸共は我先にと逃げ出した。意識を失い残された男たちは、三人によって縛り上げられ、その辺りに放り出されたらしい。
それからは各々時間を過ごし、今へ至る。



「これは、お母様の形見なんです」


鍛冶屋は、千夜に懐刀を手渡した。彼女が鍛冶屋に依頼したものである。千夜は、刀を鞘から抜きながら言った。


「私が、母の形見として持っているものはこれくらいしかないのよ。それに、これは特別な刀なの。母も、その母から代々女系に伝わったものだと聞いているのです」


刀身は、光を受けて煌めく。その美しさは鋭くも、どこか優しい色をしているように感じた。凛とした態度の中に柔らかな一面を持つ、まるで千夜を表しているようだと三人は思う。


「けれど、特殊な刀でそう多くの鍛冶師には扱えないのです。それなのに、私はちょっとしたことでこの刀を刃こぼれさせてしまった――…養父には言えませんでしたし、こっそり直そうにもこの江戸でこの刀を扱えるのはおじさまだけと聞いていたから」


それで、家の護衛を振り払ってどうにかここへ来たかったのだと言った。理由は分かったが、無茶であることには変わりない。
鍛冶屋は目に涙を溜めて、何度も繰り返す。


「礼を言うのはこっちさ。もう一度この刀を研ぐことができるなんて、わしも夢のようだった」


千夜は、にっこりと笑んで懐刀を抱きしめる。そしてもう一度、頭を下げた。


「ありがとうございました。このご恩は、忘れません」

「構わんさ…千夜嬢、達者でな」

「おじさまも」


一件落着、である。





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