6 千夜の指定したその鍛冶屋は、江戸の外れにあった。 その場所を聞き、三人は顔をしかめる。確かにあのあたりは治安が悪い。彼女が一人で行くのは危険すぎる。それどころか、三人が同行したとしても、若い女性が行くには不安に思えた。 「他の鍛冶屋じゃ駄目なのか?もっと安全な場所にもいくつか知っているが」 「申し訳ないけど…駄目なの。あの鍛冶屋でなければ、意味ないのよ」 彼女の意志は固い。その上、前払いだと金貨を握らされてしまえば今更断れもしない。それに、もし今断っても彼女は別の男に護衛を頼もうとするだろう。 (それならば、俺たちが守る方が安心だ) 斎藤は思う。 彼女には度胸がある。それなりの護身術も身に付けているようだ。でも、それでもか弱い女性なのである。最初に出会ったあの時のように、逃げ惑う彼女を見てはいられない。 斎藤、原田、藤堂は、まだ若いが腕は確かだ。きっと彼女を守りきれるだろう。他の男に任せるよりも、余程安心だと思うのだ。 ――そうして、やってきた江戸の外れ。街中には居られない者の巣くう魔窟である。 案の定、目立った。千夜は見るからに良家の娘。それもとびきり美人だ。そんな娘がこのような場所にいることなど、普通はない。 それでも、斎藤たちの睨みが利いたのか、ちらちらと視線こそは送られるものの話しかけてくる輩はいない。濁った目を向ける破落戸共も、斎藤の手が刀の柄に掛っているのを見て目を逸らす。 「ここか…?」 彼女が指定したその場所は、廃れた小屋であった。鍛冶屋としての設備は整っているようだが、店をやっている様子はない。 四人が小屋の前で立ち尽くしていると、小屋の向こうから老人がやってきた。藤堂が声を張る。 「あ、すいません!この鍛冶屋の人?俺たち、用があるんだけど!」 しかし老人は見向きもせず、藤堂に背を向ける。すると藤堂の身体を押しのけ、千夜が前へ出た。 「…刀研ぎを、お願いしたいのです」 千夜の声が響くと、老人ははっと顔を上げた。丸くした目に千夜を映し、震える唇を開く。 「千夜嬢ちゃん…?」 にっこりとほほ笑んだ千夜。彼は、泣き顔のような笑みで、顔をくしゃくしゃにした。 |