2 原田と藤堂の元に呼び出しがかかったのは、その日の早朝のことだった。珍しく永倉は別件で不在であり、童が斎藤から預かったという言伝を貰った彼らは、二人だけで向かうことにしたのだ。 「斎藤くんが俺たちに頼み事って、珍しいよな」 「珍しいってか、今までになかっただろ」 原田左之助と藤堂平助。二人は近藤が道場主を務める試衛館の食客として世話になっている身である。しかし他流試合があるわけでもなく、道場破りが来るわけでもなく、ただ道場でじっと稽古を眺めているだけで時間と力を持て余しつつあった。つまるところ、暇なのである。だから一見不可思議な斎藤からの呼びつけにも、二つ返事で応じたのだった。 斎藤は試衛館に出入りはしているものの、原田や藤堂とは何かと異なる男だった。食客として居座っているわけでもない。年は同じ頃ではあるが、斎藤はひとり落ち着いた雰囲気をまとい、何を考えているかわからないところがある。 だからその彼が抱える厄介事といえば、二人の驚きと好奇心をくすぐるには十分だった。 指定されたのは、馴染みの蕎麦屋だ。 「お前たち、ここだ」 二人が暖簾を潜るとすぐに、奥の席から斎藤が手を上げた。二人もそれに返答を返しつつ、近付く。だがいつものように手を挙げかけ、動きを止めた。 「遅かったな。刀は差して――いるな」 この時点で斎藤の声など、既に聞こえていない。原田と藤堂の視線は、ある一点でピタリと止まっている。 斎藤の隣に、物凄い美女が座っていた。 |