愛を愛する


人間、どんな環境にもある程度は適応できるものなのだ。
家庭の事情で突然転校することになった時、流石に私も動揺した。理由はひとつ。女子生徒が私ひとりきりという話を聞いたからだ。元々男子校だったものを、共学校へと切り替えたばかりだという。だが、残念ながら一年目の女子の入学はゼロ。そこへ、私は転校することになった。

それがちょうど、去年の今頃の話。
事件も沢山あったが、なんだかんだ良い友人にも恵まれ学園生活を過ごしている。

入学式を終え、新品の制服に身を包む一年生を眺めつつ、私もひとつ学年の上がった新しい下駄箱の前に立ち尽くす。今年は女子生徒も数人入学してきた。その中には従姉妹の千鶴もいる。

(数少ない女子同士、仲良くしたいな)

靴に履き替えて帰宅する同級生に手を振りながら、思いをめぐらせる。

(それにしても・・・一年生ってあんなに若いのね)

たった二つしか違わないのに、随分自分が年を取ってしまったよう。期待と不安で胸をいっぱいにして、彼女たちはキラキラしていた。
何もかもが、これから。その様子が少し羨ましい。


「千夜、そんなに隙だらけで立ち尽くすな。タチの悪い生徒に襲われでもしたらどうする」


やってくるなり、眉を寄せた待ち人に、私も唇を尖らせて反論してみる。


「まぁ。隙だらけというよりも、千景が遅いから待ちくたびれちゃったんですけど」

「――悪かった。中々抜け出せなくてな」

「わかってる。大丈夫よ、待ってるの、そんなにつらくない」


私と千景は、顔を見合わせて笑うと靴に履き替えて昇降口を後にした。
風間千景は、クラスメートでこの学園の生徒会、そして私の恋人だ。完全に校則違反な白ランを堂々と身に纏い、金の髪を靡かせるその姿はとても派手だけれど、とても素敵な私の彼氏である。
今日の壇上でも、人一倍目立っていたことを思い出して頬が緩む。


「一年生、可愛かったね」

「俺にはうるさいガキにしか見えなかったが」

「もう、相変わらずなんだから」


在校生には見慣れた彼の姿に、一年生は度肝を抜かれたような顔をしていた。冷たい目でせせら笑うような千景に、教師陣も苦笑気味だった。


「千鶴や、他にも何人か女の子が入ってきて嬉しい。私が先輩らしく引っ張っていかなくちゃ」

「その言葉の割に、浮かない顔ではないか」


千景は、私の頬を指先で摘む。
心配事があるなら聞くから言え、という態度をしつつも、その表情に面白がるような色を見つけてむっとする。したところで、結局面白がられるだけなんだけれど。


「・・・きっと皆、千景に見蕩れていただろうから」

「ほう?」

「今までは、少なくとも学校では、千景に焦がれるのは私だけだったでしょ。でもこれからは他の子が千景にアタックしたりするのかな、とか」


嫉妬しいなのは、重々承知している。恋人という関係でありながらも、安心できないのはそれだけ千景が魅力的な男だからだ。
渋々思いを打ち明けた私に、彼は呆れたように笑った。


「何を今更、その程度。俺は毎日、千夜を他の奴らの前に晒すことに耐えながら過ごしてきたからな」

「う・・・」

「今日も一年共がお前に熱を上げていた。しばらく害虫駆除に追われそうだ」

「が、害虫だなんて」

「間違いではないだろう。千夜、お前は自分の魅力をもうちょっと理解しろ」


そう言われても、自分のことはよくわからない。
でもどうやら、あんまり心配するなということのようだ。


「千景、ずっと私のもので居て下さいね」


指を絡めて手を繋ぐ。見上げた千景は、私の手を握り返しながら、私の欲しい言葉をくれる。


「言われずとも。千夜の手を握るのも、笑顔も見るのも俺だけの特権だ。忘れるな」



これが私の
最高の、最愛の、大好きな恋人です。



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