ほんの小さな、些細な幸せ


ばたばたと、軽い足音が複数向かってくる。わあわあと騒ぎながら脚にまとわりついてきたのは、私の四人の子供たちだ。


「母上ー!」

「母上!お早うございます!」

「こら、あなたも母上にごあいさつなさい。一番幼くとも、あなたが跡取りなんですから」

「ははうえー」


まだよちよち歩きの末子の手を引いているのは、長女である。彼女もまだ十分幼いのだが、やはり女の子というべきか、随分しっかりとしてる。
毎朝恒例の一連の騒ぎに、つい笑いながらもそれぞれに挨拶を返した。そして、やってきた夫の方へ注意を促す。


「父上がお帰りになられましたよ。危ないから走らないで、ご挨拶なさいね」


子どもたちは、素直に言われた通り父親に向かって頭を提げた。
厳格な父親を体現している千景は、子どもたちの憧れになりつつあるようだ。長男や次男がこっそり「父上のような鬼になりたい」と教えてくれた時は、どんなに微笑ましく思ったことか。私も千景のことは凄い鬼であると思うし、彼が子どもたちに慕われるのは単純に嬉しい。
そんな風に思っていると、突然次男が大声を上げた。


「あー!不知火おじさん!」

「ばか、失礼だぞ!不知火殿は父上のご友人なんだからっ」


隣の長男が、次男の頭を叩く。しかし次男は気にした様子なく、不知火に駆け寄った。そして不知火自身も、にかっと気さくに笑う。


「よぉチビども。元気にしてたか?」


彼は今日、里に用事がありたまたま屋敷にも寄ってくれることになったのだ。頻度は少ないが、よく子どもたちの相手もしてくれるので、彼らには良い遊び相手と認識されているらしい。よたよたと寄ってきた三男を抱き上げ、私に笑いかける。


「末っ子はどんどん風間に似るよなぁ。瞳だけ千夜だ」

「そうなの、将来は瓜二つね。それにしても匡、ごめんなさい。皆、遊びたい盛りで・・・」

「俺はいいけど、千夜も大変だな。風間の相手だけで大変なのによ」


明るい声を上げた不知火を、長女を抱き上げていた千景が睨みつける。


「不知火・・・貴様、口が過ぎるぞ」

「お前の父ちゃんは、相変わらず傍若無人だな〜?」

「不知火!!」

「まぁ千景、落ち着いてちょうだい」


しかし二人は互いに睨み合いながら、子どもたちを私に預けると庭へ出て行ってしまった。ここに天霧がいれば、まだ収集がつくのだが・・・。

(殺し合うわけじゃないし、大丈夫よね)

長男と次男が何かひそひそと話していたかと思えば、寄ってきて首を傾げた。


「母上、父上と不知火殿は仲が悪いの?」


不安そうな二人の頭を撫でる。そして、優しく笑ってみせた。


「仲が良いから喧嘩するのよ」


全く、困ったお父さんだ。


130114



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