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徹夜明けの頭をすっきりさせようと、土方はふらりと縁側へ出る。すると前方から、胴着姿の近藤が歩いてきた。


「おう、近藤さん。久々に道場か?」

「ああ。実はな、雪村くん稽古を付けてきた」


雪村というのは、暫く前からこの新選組で預かることになった少女のことだった。


「なかなか、良い筋をしている。素直な心が太刀筋でわかるよ」

「近藤さんがそういうなら、そうなんだろうさ」


その時、井戸で顔でも洗っていたらしい雪村の姿がちらりと見えた。高く結った髪に胴着、木刀を手にした彼女にはっとした。同じ少女だからか。雪村の姿に、遠い昔の記憶が重なる。


「なーんか、彼女を見てると誰かさんを思いだしますよねぇ」

「…総司」


いつの間にか隣に立っていた沖田は、土方の心を見透かすように笑う。沖田の言葉が何を意味しているのか察した近藤と土方は、顔を見合わせて苦笑いした。
忘れられない出来事だった。まだ多摩にいた頃、ひょんなことから1日だけ共に行動した少女。人間技とは思えない剣技を見せつけた彼女とは、それ以降連絡はとれなくなった。


「うむ、不思議な女子だったな。彼女だったら総司にも引けを取らないだろう。連絡を取れないのが残念だ」

「やだな近藤さん。僕が女の子に負けるわけないじゃないですか」

「わからんぞ。女剣士だって、いないことはないんだ」


二人の会話を聞き流しながら、土方は記憶を巡らせる。
実はあの後、何度か彼女を探そうとした。しかし連絡はおろか、"先生"と呼ばれていた男の屋敷も跡形もなく消えていたのだ。あれほどの能力の持ち主なら、何らかの話題に上ってもおかしくないと、町で女の剣士の噂を探しに探した。だがついに、何ひとつ情報は得られなかった。


「あの子、何者だったんでしょう。もしかして、鬼、だったとか?」


沖田が茶化す。
土方の動きが一瞬止まった。だがすぐに吐き捨てるように返した。


「全然面白くねぇよ」


土方は溜め息ひとつ吐いて、二人に背を向けて部屋へ向かう。くだらないことを考えている場合ではない。新選組副長として彼には、他にやらなければならないことが沢山あるのだ。




〈紫袴の剣士 了〉

101111



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