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凄まじい騒音の後、嘘みたいに静まり返った道場で呆然としたまま口を開いたのは、土方であった。


「大丈夫か、近藤さん」

「ああ。それより千夜くんは、」


近藤は倒れていたために、衝撃のその瞬間を目にしていなかった。だから沖田に支えられたまま身体を起こし、息を呑む。


「何がおきたんだ…?」


それはその場の男たちの思いを簡潔に表した一言だった。
先程近藤に向かってきた男は、何故か近藤たちが立っていた壁とは反対の、向かい側へと倒れている。壁に激突したようで、壁の一部がへこんでいた。どう見ても男が壁まで突き飛ばされた状態なのだが、同時にそれはありえないと思わざるを得ない。
この道場の端から端は、決して人が突き飛ばされた程度ではぶつからない距離だからだ。もしこれが近藤の仕業ならまだ納得したかもしれないが、これを成したと考えられるのは、


「千夜くん…」


男の向かいの端に立つ少女だけなのだった。


「胴当てが…」


男の様子を見に近寄った井上が、茫然と呟く。
みると胴当ては、まるで瀬戸物を床にたたきつけた時のようにひび割れている。ちなみにその部位は鉄でできているため、普通、割れるなんて有り得ないことである。


「ご、ごめんなさい。手加減、まだ上手くできなくて」


井上の声に、我に返ったように言った千夜を土方は凝視する。

(手加減、だと――?)

少し見ただけでも相手はまるで、化け物にやられたかのような有り様だ。彼女はそれを自分の仕業だと認めたのだ。


「あんた、一体…」


土方が警戒を強めたその時。


「ひい、鬼ッ…お前、鬼ィイ…!!」


昏倒していた男は目を覚ますなり、千夜を指して喚きはじめる。


「おい、あんた怪我は、」


井上の気遣う声は全く聞こえていないらしかった。ただ、千夜を視界にいれて、己の身体を抱き、ガタガタと震えながら声にならない声で喚く。あきらかに異常な様子の男に、皆の目が引きつけられる。
そんな中、千夜は冷ややかに彼を見つめた。その双眸の紫苑はただ冷たく、射抜くような鋭さを孕んでいる。

土方はちらりと彼女を見て、眉をしかめた。




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