何が起きたのか理解できない。
一瞬。たった一瞬で何が起きたのか。


「早いですね」


沖田が呟いた。近藤が「見えたか」と尋ねると沖田は二人から目を話さずに小さく頷く。


「あの男、早い。合図と共に踏み込んで土方の竹刀を飛ばしたんだ」


そして面に打ち込んだ。ピタリと額すれすれで止められた竹刀に土方はごくりと唾を飲む。完敗である。


「あいつ、前回はいなかった奴ですよ。奴ら、どこからあんな男を連れてきたんだか」

「まずいな。源さんもトシも歯が立たずに、うちの大将は…」


近藤の視線の先には小柄な少女。駄目だ、彼女を試合に出すわけにはいかない。
彼女の技術を信じていないわけではない。多少はできるのかもしれない。だが、中途半端にできるのが一番困る。あの速さ、力、まともに受けたらどうなるか、わからないのだ。
しかし近藤が制止をかけるより早く、千夜は防具を付けてその男に向かい合っていた。


「ほう、嬢ちゃんが相手か。別嬪さんが相手なんて光栄だな。こりゃあ手を抜けない」


男が厭らしい笑いを浮かべて千夜を舐めるように見る。土方が青筋を立てて駆け寄ろうとするのを近藤が止めた。


「駄目だ、もう試合は始まってる」


できれば彼女を試合に出したくなかった。が、ここで手を出せば道場の威信にも関わる。千夜は男に見向きもせずに、綺麗な構えの体勢を取った。もう、千夜に賭けるしかなかった。


「始め!」


声が鳴り響き、そして。

――つんざくような音が鳴り響く。



101013



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