7 何が起きたのか理解できない。 一瞬。たった一瞬で何が起きたのか。 「早いですね」 沖田が呟いた。近藤が「見えたか」と尋ねると沖田は二人から目を話さずに小さく頷く。 「あの男、早い。合図と共に踏み込んで土方の竹刀を飛ばしたんだ」 そして面に打ち込んだ。ピタリと額すれすれで止められた竹刀に土方はごくりと唾を飲む。完敗である。 「あいつ、前回はいなかった奴ですよ。奴ら、どこからあんな男を連れてきたんだか」 「まずいな。源さんもトシも歯が立たずに、うちの大将は…」 近藤の視線の先には小柄な少女。駄目だ、彼女を試合に出すわけにはいかない。 彼女の技術を信じていないわけではない。多少はできるのかもしれない。だが、中途半端にできるのが一番困る。あの速さ、力、まともに受けたらどうなるか、わからないのだ。 しかし近藤が制止をかけるより早く、千夜は防具を付けてその男に向かい合っていた。 「ほう、嬢ちゃんが相手か。別嬪さんが相手なんて光栄だな。こりゃあ手を抜けない」 男が厭らしい笑いを浮かべて千夜を舐めるように見る。土方が青筋を立てて駆け寄ろうとするのを近藤が止めた。 「駄目だ、もう試合は始まってる」 できれば彼女を試合に出したくなかった。が、ここで手を出せば道場の威信にも関わる。千夜は男に見向きもせずに、綺麗な構えの体勢を取った。もう、千夜に賭けるしかなかった。 「始め!」 声が鳴り響き、そして。 ――つんざくような音が鳴り響く。 101013 |