それは真実に愛か


<ほんとうに、奴は姉さんの恋人なのかな?僕は、疑問しかないね>


吐き捨てるように、少年が言った。私にしか見えない、精霊の少年、薫である。記憶を取り戻すために協力すると言った少年は、この数日間で、かなり私に同情的であるということがわかった。そして私よりも、警戒心が強いようだった。姉さん、と私を呼ぶ彼は、目の前の男を見下すように吐き捨てる。


<姉さん。この男、さっき他の女にも同じようなこと言ってたよ。信用できないよ。なんで姉さんがこんな顔だけの男とつき合っているのさ。だまされている>

(でも、メールとかから私はこの千景さんとつき合っているようだったし…)

<けれど、それも怪しかったじゃない。姉さんには、他にも親しげにメールしてくる男がいたみたいだし。よく町中で声もかけられる。――まあ、姉さんはとても美人だから仕方がないことなんだろうけどね>


「どうした、ナマエ。ぼんやりとしているが、どこか具合でも悪いのか」

「い、いえ、そういうわけじゃないのです」


薫との会話に気を取られて、ぼんやりとしていた。私は慌てて、掛けている眼鏡を押し上げる。
記憶を失い、記憶を探し出して、早くも十日程になる。けれども、疑問は増えるばかりだ。その最たるものが、私の恋人である(らしい)この千景という人だ。派手な金の髪、そして宝石のような紅い瞳。かなりの美形で、振る舞いも派手である。どうやら家も資産家であるらしいことがわかっていた。
私はこの人とつき合って、そろそろ三ヶ月になろうとしているらしい。けれども彼は他にも親しくしている女性がいるらしく。そして私は、度が入ってもいない眼鏡を、外出時に着用することを義務づけられている。


<ほんと、なんなんだろうこいつ。眼鏡フェチ?>


薫は千景がお気に召さないようで、会う度に毒を吐く。けれど、ただ彼の好みで眼鏡を掛けさせられているわけではないらしい。一度裸眼で出歩こうとして、血相を変えられたのだ。君は、また大騒ぎを起こすきか、と。


<でも、二人っきりの時は外せとかよくわかんないこといいうよね。姉さんは綺麗なし紫苑の瞳なんだ。見せた方が綺麗だって言うのに>


薫の言うとおりだった。眼鏡着用を強要する割には、千景はその眼鏡を忌々しそうに見つめることが多い。


「あの…」

「どうしたナマエ。甘えたくなったか?」

「いえ。そうじゃなくて、眼鏡。外しちゃだめですか」

「…今は、やめといた方がいい。ナマエの美しい瞳をレンズ越しでしかみれないのは残念だが、その紫苑の魅力に耐えられるのは、俺くらいだからな」


私の髪に指を絡め、本当に残念そうに千景は微笑んだ。結構横暴なところもあるけれど、彼のそういった振る舞いは恋人にするものに他ならない。薫の警告を無視するわけではないけれど、きっと彼とは恋人同士なのだろうと思う。


「そろそろ時間だ」


時計を確認し、名残惜しそうに彼は私から手を離した。
携帯電話を確認する。また他の女性との約束なのだろうか。わからない。本当に私は、この人とどういう関係だったのだろうか。

立ち上がる彼を眺めていた私に、一度だけ、千景は振り返る。
そして、呟いたのだった。


「そうだ。あと半月だが、そろそろ分かってくれただろうか。俺は君の瞳関係なしに、ナマエに惚れている」


150816



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