罪と咎の果てに


ナマエが時空を越えて僕の部下となり、そしてすべてを受け止めて僕を救ってくれたことはもう、ずいぶん昔のことになりつつある。
龍神の守る世界から、僕は彼女の世界で生きることを選んだ。これからはナマエの為に生きると、決めていた。

だというのに。


<ナマエさんが時空を越えて私たちの世界で影響を及ぼした余波がまさか、こんな形で現れるだなんて>

「ええ…僕もまさかと思いました。でも、これは僕の咎だ」


頭の中で響く声に、言葉を返す。もっと早くに気づいていれば――後悔しても今更どうにもならない。もう始まってしまった。第一、気づいていたところでとれる措置があるのかどうかは怪しい。


「ナマエは既に、僕たちの世界の存在として組み込まれていたんですね」



かつて白龍の神子である望美から聞いたことがあった。ナマエは弁慶のために時空を越え、そして異なる幾つもの時空で弁慶のために命を落としたのだと。望美が見てきた様々な時空において、自分とナマエが共に生存している場所はほとんどなく、酷い時にはその存在そのものがないものとして扱われていたのだと。
それを聞いたときにぞっとした。ナマエの存在が自分の中でどれだけ深く刻まれているかと実感した瞬間だった。

でもその時は、遠い世界の話だと高を括っていたのだ。
ようやくナマエと結ばれこの世界に来て、そして絶望した。もうナマエにはこの世界に居場所はないのだと、わかってしまったのだ。

二人、ナマエの生まれた世界に来た時に自分の存在は龍神によって用意されたものだった。しかしナマエは元々この世界の人間である。何も弊害はないはずだった。――でも、結果、それは間違っていた。あらゆる複雑な運命をたどったナマエは元の世界で異物と断定され、そしてその存在を許されなかったのである。
そうして、いくつもの災厄が降りかかり――ナマエは、命を落とした。それが最初の、八月二十五日のことである。

勿論、自分は許せなかったのだ。認められなかった。自分の腕の中で冷たくなるナマエに気が狂いかけた。実際、狂っていたのだろうと思う。そして取った行動は、かつての呪詛を繰り返すことだった。すなわち、あの世界の龍神の力を使おうとした。
そして黒龍の力を取り入れることに成功したのだ。今、自分の内部には黒龍が存在している。その力で、何度も何度も時空をたどった。あらゆる時間軸平行軸にいるナマエを救おうと試みた。何度も何度も――かつて、望美がしたように。何回もやりなおして、その度に死んでいくナマエを目の当たりにした。

そしてすり切れそうになって。黒龍の限界の近いことを知り。これが最後だと時空を越えた。

たどり着いたのは――はじめに彼女とこの世界にやってきた、最初にナマエを失ったあの時空だったのである。


「黒龍、間違いなくここは、僕とナマエが最初に二人で戻ってきた世界、なんですか」

<間違いないよ。ここは、君が私を呼び出したあの時空だ>

「だとしたら…何故ナマエは、僕を知らないのでしょう」


自分でもわかるのだ。ここが間違いなく、二人でわずかな幸せな時間を過ごした世界であると。でも、再会した彼女は僕をみてきょとんと首を傾げた。時空では当たり前の反応だったから、その時はやり過ごしてしまった。だけれども何度考えても、ナマエが自分を知らない訳がないのだ。

しかし、既に弊害はあらゆる部分にでている。
何度時空を越えたかわからない。何らかの因果関係で、ナマエが記憶を失っていても不思議ではない。とうに世界は――自分は、狂ってしまっている。


「たとえこれが罪だとしても、もう僕は戻れない」


ナマエが自分を知らない。衝撃的だけれども、それはもう弊害になりようにない。それでもいい。この心はナマエを求めて止まらない。どんなことをしてもナマエをこの腕の中に取り戻したい。彼女を死なせたくはない。
そのためだったら何でもする。たとえ世界を敵に回そうとも、もう後戻りはできやしないのだ。


「僕はあまりにも罪を重ねすぎた。それでも…君だけは、諦められないんですよ」


呟いた言葉に、返事はない。

見上げた空はどこまでも青く。
でも空虚な心ではその鮮やかさを、もう感じることができなかった。


150823

ジョーカールートパロでした。一応、本編のIF続編的なイメージで書きました。結ばれて現代EDになったのはいいけれど、その先で再び死の運命から逃れられないナマエとそれを認められない弁慶さん。この弁慶さんは完全に世界云々よりもナマエ優先思考に偏り狂ってしまってる感じありますね。いいですよね。結局、時空移動を繰り返し繰り返して、最終的に辿り着き戻ってきた一番最初の世界で、しかし運命のいたずらでナマエは記憶を失っていたのが弁慶さんの誤算。それでも、と求めるのは、平和に彼女が生きる世界――というよりも、世界が滅びても共に居られる世の中なのかもしれない。

ウキョウ=弁慶は、完全に中の人採用というか、個人的にウキョウ好きすぎるあれで弁慶さん贔屓的な部分あったのですが…見事にハマり過ぎて、殆どこれウキョウじゃんってなている現在です。オリオンの白龍と、二ールの黒龍がこう、引かれ合ってアーッ!みたいになりますね。弁慶さんはウキョウより策士なので、もっとこう、色々しでかしそうな感じはします。本編よりもヤンデレ依存調です。でもED後はきっと本編後とあんまり変わらない甘さでしょうね。

願わくば、バッドEDも数本書きたい(希望)。




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