また随分と不揃いなものだ




例えば、一言で花と言っても、様々な種類がある。花は花でも桜と蒲公英は色も形も全く違う。桜の中でも枝垂れ桜と染井吉野ではまた違う花だ。それと同じように人間も様々だ、といつか語ってくれたのは養父だっただろうか。様々に違うのだから、個性があってもいい。様々だからこそ、世は鮮やかかなのだ。それは、花も人間も同じ。
そして、鬼も同じだと、私はこっそり心中で付け加えた。


(派手な人だ)


それが第一印象。
長く伸ばした髪を無造作に上で結い上げている。褐色に近い、日に焼けた肌は健康的で、鍛え上げられた肉体もよく引き締まって見えた。研ぎ澄まされたように、緊張感のある雰囲気を纏っている。彼はきっと、戦場では生き生きとした働きをしたに違いない。
養父の親しかった人の中にも、似たような雰囲気の人は少なからずいた。だから特別恐ろしくはなかったが――ただ、その鋭い瞳にじろりと見られると、不思議な威圧感があった。


「不知火、姫様が怖がっておられる。そう睨みつけるな」

「ああ?姫様だぁ?」


「千夜様だ。雪村本家の血筋を引いている高貴なお方で、今回風間家に招かれた、」

「あー…風間が言ってた女か」


不知火匡と、その男は名乗った。天霧と江戸を経って数日。途中寄るところがあると、昨夜この町についた。そこで紹介された彼は、風間や天霧と共に戦争に参加した鬼らしい。
紹介された私は、改めて「千夜です」と名乗って、不知火の表情を伺う。不知火は、興味深げに私をじろじろ見た。


「…お前があいつの、」


彼は何か呟いた。しかし声は小さく、最後まで聞き取るけとが出来ない。私が聞き返す前に、彼は今度はよく通る声で感心したような声を上げた。


「事情があるにせよ、風間の誘いを受ける女初めて見たぜ。あいつ、女鬼に好かれねーもんなァ」


その時の明後日を見るような不知火の表情は、前に見た天霧の表情にそっくりで、三人で行動を共にしていた時に何かあったのだろうと予想がつく。風間の女鬼関係で。
その辺りの話は、今度じっくり聞こうとこっそり決意した。保留にしてあるとはいえ、嫁にと求められた私にしてはかなり気になるのだった。


「つーか、何で俺も同行な訳」

「私一人では、何かあったら対処しきれない。お前なら多少は信頼できるからな。
――それに、長州への恩返しとやらは、もう終わったのだろう」


不満そうな不知火に天霧が言い放つ。不知火は溜め息を吐くと、私を見下ろした。面倒くさいと言った様子である。
しかし、不思議とあからさまな拒絶は感じさせなかった。見下ろす彼の表情は、困った妹を見る兄の態度に似ていた。(それは、私の自惚れかもしれないけれど。)


「姫様、ここからはこの不知火も共に護衛をさせて頂きます。何かあったら遠慮なくおっしゃって下さい」


天霧の言葉に、思わず私は声を上げた。


「あ、あの天霧さん…その姫様っていうの止めて下さらないですか?」


天霧はうろたえるように「ですが…」と言葉を濁す。
数日間共にいてわかったことだけれど、天霧はとても紳士な男だった。そして、鬼の血筋を重んじていた。その彼から見たら、確かに雪村の血を継ぐ私は姫なのかもしれない。しかし雪村はとうに滅んだ家で、私は本来なら継承権を失った娘である。
意味は無いかもしれないが、その辺りははっきりさせておきたかった。


「確かに私は雪村の娘ですが、一度鬼であることを止めようとした身です。どうか、千夜とお呼び下さいませ」

「いいじゃねーか、俺、そういう潔い女嫌いじゃねぇ」


不意に助け舟を出してくれた不知火は、私の頭に軽く手を載せた。多分、年は同じ位だろうに、少し子供扱いされているみたいで気恥ずかしい。
そんな不知火に促されて、私はもう一度天霧に言った。


「天霧さん、お願いします」


渋っていた天霧は、それでも曖昧な表情で承諾してくれた。


「…では、お言いつけの通りに」


不知火はそんな天霧を見て笑う。
鬼というのは、もっと恐ろしいとばかり思っていた。しかし今のこの状況は私の杞憂を十分に吹き飛ばすものだ。花に、人間にそれぞれがあるように、鬼もまた一人一人違うのだろう。
思いがけず賑やかになった道中に、頬が緩んだ。


「千夜様、私たちのこともお呼び捨て下さい」


天霧の申し出に私は大きく頷いて、二人の手を掴んだ。


「九寿、匡、よろしくお願いしますね」


鬼三人、道中はまだ長い。



090827



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -