(やっぱり、単なるタイムスリップじゃなさそうだ)

ハルさんや九段くんの話を聞く度に、私はその考えを強めていった。ここに来てすぐ、私は今の年号と西暦を聞いた。はじめからここは別の世界か何かだとは思っていたので、自分の覚えのない答えが返ってくるまでは想定内だった。驚いたのは、それが聞き覚えのある「過去」の時代のものだったということ。大正といえば、私が居た時代からは100年弱前の頃だ。

(確かに、言われてみれば”大正”って感じだなあ)

細かくは覚えていない。でも、だいたいこんな感じだろうなあという大正時代なイメージと近い気がしていた。まだ古風な着物姿の人が多く、しかしちらほらと、洋装の人も混じる。だから、私は何らかの理由で時代を超えてしまったのかもしれないとーーそんな風にも思ったのだ。
でも、どうやら事はそんなに単純ではない。残念なことに。

萩尾屋敷から少し離れた通りを歩きつつ、町並みを眺める。ハルさんに着物を貸してもらっているので、私が来たばかりの頃とは異なり、奇異の目を向けられることはない。
先日から、たびたびこうして外を出歩くようになった。ハルさんも九段くんも、それを進めてくれた。いつまでも何もわからないままでいるわけにいかないし、もしかしたら何かを思い出すかもしれないと。ついでに、と頼まれたお使いを果たせるくらいにはなった。

今両手に抱えているのは、九段くんの行きつけだという甘味屋さんで購入した焼き菓子だ。もう注文してあるから、と詳しく内容は聞いていないけれど、恐らく八つ橋だろうと思う。ここは京ーー京都である。今も昔も、私の世界もこの世界も、銘菓に代わりはないらしい。それがどこか安心なような不思議な気分になった。


「あ、まずい。はやく帰らないと」


このお屋敷で一番重要なのは食事の時間、そしてお八つの時間である。どこに出かけてもいい、何をしてもいいとのことだったけれども、この時間には必ず屋敷にいるようにという言いつけだった。

そして、お八つの時間は九段くんとゆっくりとお話できる大切な時間でもある。


151018



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