口にして、はっきりと思った。
そうだ。私が不安なのは、この帝都の、この世界の終焉ではない。私の大切な人が、大切な場所が危険に脅かされてしまうことだ。薄情かもしれないけれどーーこの世界がどうなろうと、私の範疇外のことだと思う。もし自分が巻き込まれたらと思っても、未だ記憶の曖昧な部分が多い私である。自分の身に関しての危機感がとても薄いことは、自覚している。

けれども、その危機が私の周囲に向けられたら、話は別だった。
先日、気づいたばかりだ。私はこの世界で与えられた居場所に、執着しつつある。私は、私がここに居たいと思える要因である人たちや彼らの居場所が失われることを考えて、恐怖した。悲しむ彼らを見たくないと思った。


「私は、九段くんが心配だよ。千代ちゃんも、おハルさんも。有馬さんや、秋兵さんだって。帝都に危機が訪れたら、きっと帝国軍のみんなは率先して立ち向かうんでしょう。……予言が現実になって、九段くんが傷つくのが、怖い」


一度気づいたら、気持ちがはっきりした。
まず帝都を救う使命を第一としている九段くんには、申し訳のないことかもしれない。でも私は、自分の気持ちを誤魔化せるほど器用な質ではない。そのまま、思ったことをすべて口にする。
九段くんは驚いたように私をじっと見つめていた。それから何故か、口元をふふ、と綻ばせる。


「ぬしは……優しいな。昔から、そうだ。そうだったな。それが椿だった」

「え?」

「いや、ちゃんと覚えていたつもりだったが、やはり7年は遠い」


今度、首を傾げるのは私の方で。九段くんは、少し離れたところへ控えていた私を、椅子の隣に呼ぶ。私が彼の隣へ立つと、ぎゅ、と私の右手を彼の両手で包み込んだ。


「我は、椿の方が心配だ」


座ったままの彼に、下からまっすぐ見つめられる。色素の薄めな瞳は、けれども強い光を宿して私を映している。


「椿は、少し自分のことをないがしろにしすぎなのではないか?」

「そんなこと――」

「椿は今、我の身を案じてくれたな。でも我は同じように椿の身を案じている。それは、わかってくれるだろう?」


九段くんがすっかり成長したと、感じるのはこのような時だ。彼の言葉は優しいけど、誤魔化させてはくれないように思う。以前の彼は聡くても、やはり子供だったから。
今はこちらが心の内を、すっかり見透かされそうだ。別に、困るようなことを隠しているわけではない。でも、こんな風に言ってくれている手前、自分のことがどうでもいいなんて・・・自覚のある危機感の薄さを、彼に伝えたいとは思わない。きっと彼は、それを気にしてしまうだろう。


「や、やだなあ…九段くん、私は無茶をしようがないじゃない。軍属ってわけではないのだもの。だから、九段くんは自分の身をしっかり守ってね」

「……そう、だな」


やっと頷いた彼だけれども、どこか煮え切らないような顔で。
でも私はこれ以上、この話題を続ける気はなかった。






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