かつて世間を騒がせた星の一族の予言は、広く世間に公表されていたものだった。ましてや私はその星の一族とかなり近い位置に居たのだ。だから私がその予言について知っていたことは、何にも不思議なことでもない。
けれども、よく考えてみれば「予言」について九段くんと話すのは初めてである。彼が幼かったあの日、まだ予言に対する世間の衝撃は多く、そのせいで萩尾家は一時混乱状況にあった。
九段くんは幼いながらに聡明な子だったから、当時の状況もある程度は理解してたいだろう。だからこそ、あの時の私は九段くんに余計な心配をかけたくなく、彼の前ではあえてその話題を避けていた節があったのだ。それにあの時は、こんなに近い未来に予言が現実になってしまうだなんて思わなかったのだ。

今も、まさか例の予言に直面することになるなんて、という気持ちがつい口から飛び出してしまったのだ。でも驚いたのは自分自身だ。意識していなかった不安が浮き出てしまったような気がして。


「いや、あの、元々予言のことを気にしてたってわけじゃないんだけどね?!予言の結末を信じてる、というわけでもないし…!」

「いや――椿の心配は尤もだ。…そうだな。そういうことになる。予言は残念なことに、実現しつつあるのだ」


九段くんは、すっと箸を置く。先程までの笑みはなく、真剣な目で私に向き合った。


「椿にはちゃんと言っていなかったかもしれないな。我がこの帝都に来たことこそ、その予言に関係している。まさに終焉の予言を回避する為に、今まで我は動いてきた」


ちらりと以前耳にしたことを思い出す。二年前、九段くんがやってきたのは、帝都に怨霊が現れたからなのだと。そして、今。もう帝都には十分すぎるほどに、不安が蔓延している。怨霊だけではない。憑病と呼ばれる不明の病や、鬼の驚異。新聞には日々、人々の不安が反映されている。
それは、つい数日前にこの時代にやってきた私にだってわかることなのだ。状況は深刻だと言えるだろう。
それこそ、帝国軍によって、秘密裏に伝説の神子が召喚される程に。


「椿が不安になるのも、おかしなことではない。今はそのような状況なのだ。でも、安心してくれ。神子が召喚されたということは、いずれこの状況も打開できよう」 


九段くんは、ふわりと笑みをつくる。きっと、私を安心させるために。
けれども決して、裏付けのない話でもない。九段くんは星の一族で、神子に関してはエキスパートだ。彼がいうからには、状況は悪くない方に動いているに違いない。
でも、問題はそこではなかった。


「……私自身が、不安、というわけではないのよ」

「椿?」

「九段くんが、心配」


私の言葉に、九段くんは目を瞬かせた。





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -