有馬さん、片霧さんと共に出掛けていった九段くんを見送った後。つい朝の会話を思い返してしまう。

九段くんを弟のように見ているかというと、はっきり頷けない自分がいる。
九段くんは私の恩人だ。そして可愛らしい年下の子供だった。私も未成年で大人といえるような年ではないけれど、それでも自分よりは小さな彼に庇護せねばという気持ちが無意識下で働いていたことは否定できないだろう。

(でもそれは、彼と年が離れていた頃の事で――)

改めて明言されて、驚いた。九段くんは十九歳なのだ。私が飛び越えてしまった七年の間で、彼は私に追いついてしまっていた。

(そうか、もう年下じゃないのか)

それどころか、同い年である。近づいたどころではなく、隣に並ばれてしまうとは。記憶の定かでない私と、きちんと十九年間を重ねてきた九段くん。どちらの方が人としてちゃんとしているかなんて、論じるまでもないように思った。

私自身、まさかこんなことになるなんて思っていない。本来ならあり得ないこと。でも、あり得ないことなんてないのかもしれない。そもそも私がこの世界にやってきた事からして不可思議なのだから。そして、七年後に急にやってきてしまったことも。

じっと、自分の両手を見る。
ここにきて、急に足下が崩れていくような気持ちになる。自分が一体何者なのか、定かではない。私は、私自身を一番疑っている。

(――私は、どこから来たの?)

断片的な夢。思いだそうとすると靄が掛かったようになってしまう記憶。そして赤い――あの赤――炎の――…?

厭な気を払うように、頭を軽く横に振る。
私のことは、兎も角だ。九段くんへの接し方には迷ってしまう。九段くんは今まで通りで良いという。けれども、彼は昔の彼のままの彼ではない。今まで通りなのは私だけなのだ。時間を飛び越えてしまったせいで、彼も、周囲も、何もかもが変わってしまった。意味合いはどうであれ、私の方は、今までと同じように彼を見れなくなっていた。
それは、隠しようのない真実な気がした。

そして、もうひとつ。


「――長きをもって栄えし世にも、終末が来る……か」


かつて耳にした時には遠い未来のことだと思っていたそれは、既に目前まで迫っているらしい。だから九段くんは帝都で、帝国軍で働いている。
願わくば九段くんが関わることのない遠い先でありますようにと思っていたけれども、それは叶わなかった。
きっと私にできることなど殆ど無いだろう。そう分かっていて尚、考えずにはいられない。


その終末の時、私はいったい、どうしているのだろうか。
その時、私は九段くんの隣に居られるのだろうか。


160528



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