「姉弟……俺は、宮本さんの態度に覚えがありますね」


意外にも、助け船を出してくれたのは有馬さんだった。彼は私と九段くんを見比べて、納得したように頷く。


「俺にも兄弟が居ますから、お二人のやりとりには何となく懐かしい。九段殿は宮本さんの弟分だったわけですか。親しげだとは思っていたが――得心した」

「有馬も兄弟がいますからね。僕にはわからないなぁ」


有馬さんは、私と九段くんの間の空気感に身に覚えがあったらしい。私は実際の兄弟が居たかどうかはよく覚えていないが、九段くんに拾われてから過ごした二年間は、確かに年下の恩人に対しては少し保護者気分もあったかもしれない。


「弟分、と思っていたかは微妙ですけれど。でも、昔は私の方がお姉さんだったから。ね、九段くん」


朝食を食べ進めながら私たちのやりとりをじっと聞いていた九段くんは、箸の手を止めて私を見つめる。それから、尋ねた。


「椿は、我のことを弟のように見ているのか?」


それが、あまりに真剣な眼差しだったのでつい答えに窮する。


「ええと……どうだろう…九段くんは恩人だし、でも年下だったし」


しどろもどろになる私に、九段くんは眉尻を下げる。それから、私の顔をのぞき込むのだった。


「椿は今、いくつだっただろうか」

「え、年齢ですか? 十九です」

「我もだ。我も、十九歳だ。もう年下ではないぞ」

「え、えええ……」


あれから、七年。本来埋まらない筈の年の差は、不思議な巡り合わせで埋められてしまっているのだ。今の彼と私は同い年なのだった。それを急に意識させられて、何とも言い難い気持ちになる。


「おやおや、何だか余計な藪をつついてしまったかもしれませんね。悪いことをしたかな」


片霧さんの台詞にも、返す言葉が見つからない。


160511



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